「大白黒」というのは陳冠州のネット上の愛称である。一本のペンで白黒の絵を描いているのでこの名がつけられた。子供の頃はレゴで遊んでいたが、中学に入ると、レゴは子供の玩具だと感じて全部捨ててしまったという。それが大学4年になり、卒業制作のプレッシャーから再びレゴに出会い、一気にその世界にのめり込んでいった。

「大白黒」の名で知られる陳冠州と、その「愛人」というレゴブロック。

台湾の記憶を形に

レゴを始めたばかりの人の多くは、まずシリーズのキットを手に入れ、公式の組立ガイドに従って組み立てていく。しかし、発想が豊かで負けず嫌いの大白黒は少し違った。「なぜ外国の建物を作らなければならないのか？自分たちの台湾の建物を作ればいいではないか」と思い、組み立てたレゴをすべて分解して「台湾の町並み」シリーズの製作に取り組み始めた。

最初に完成したのは「古い町並みの豆腐屋（老街豆腐店）」、大渓の古い町並みをイメージし、豆腐屋と隣の漢方薬店をセットにした。漢方薬店の外観にはバロック式のレリーフが見え、店内には漢方薬を入れる薬箪笥や道具が並ぶ。豆腐屋の両開きの扉を開くと中には竈も見える。

台湾の町並みシリーズは、25×25センチのボードの上に組み立てられており、外観だけでなく、内装や家具なども丁寧に作られている。どの作品にも、ファンの目を惹きつけるポイントがあるという。例えば町並みシリーズ第7号の「派出所」を見ると、1階には受付、2階には取調室があり、入れ墨をした人形が手錠をかけられ、壁のスチールパイプにつながれていて、その隣には小さな留置室もある。第9号作品「檳榔スタンド（檳榔西施）」はガラス張りの店頭にキャスターがついていて収納でき、隣のバイク修理店には整備用の昇降リフトも設置されている。

町並みシリーズ第10号の「百貨店（百貨公司）」は、台北西門町にある萬年百貨を原型とし、4階建ての建物内にさまざまな要素を取り入れた。グリーンの床のローラースケート場は多くの人の青春の思い出を呼び起こす。内部のエスカレーターも仕掛けで動くようになっており、レゴの人形が1階ずつ上がっていくことができる。

路地裏を歩いて古い建築物を観察するのが好きだという大白黒は、古い家屋に歳月が残した足跡にも目を向ける。傷んだ外壁や電線、錆びたトタンなどもその作品に再現され、古い町並みに生命力を与えている。第8号作品の「眷村（戦後に国民党とともに台湾に移住してきた人々が集まって暮らす地域）喜事」では、木製の扉にはピンク色の菱型が見えるが、これは日に焼けて色あせた春聯である。第2号作品「雑貨屋（柑仔店）」の隣には建設中の家屋があり、むき出しの鉄骨の外側には工事用の足場も組まれており、これも私たちが見慣れた暮らしの風景である。「この家はいつ完成するの？」という問い合わせもあるそうだ。大白黒は「台湾人の暮らしの風景」を大切に表現しているのである。

組立中の「龍山寺」。これは大白黒にとって初めての大型作品で、梁や柱、屋根の装飾だけでなく、内部の回廊の灰色と黒の敷石まで忠実に再現している。レゴのパーツに新たな用途を開発し、困難を克服して完成させた。（大白黒提供）

生活感を再現

「建物を単一の色で表現したら、モデルハウスの模型のようになってしまいます」と大白黒は言う。そこで彼は、かつて学んだ水彩画の技法と印象派の色彩を応用している。例えば、樹木も単一の緑ではなく、青や紫を加えることで生き生きとしてくる。色彩の変化は、建物の修復の痕跡にも用いられる。「檳榔スタンド」の屋根は、グレーの凹凸でトタン屋根を表現し、茶色のパーツで錆びを入れている。こうした色彩の変化は、最初はパーツ不足のために仕方なくやっていたのだが、今では大白黒の特色となっている。

その作品「タイワンジカ（梅花鹿）」は、生きているような写実的な表現を目指し、さまざまな色彩のグラデーションで立体感を出した。濃い肌色をベースの色とし、一番鮮やかな部分は濃いオレンジ色、腹部にはサンドベージュを用い、グラデーションをつけている。鹿の下あごの関節部には濃い色を用い、メイクアップのシャドーのような効果を出した。

組立中の「龍山寺」。これは大白黒にとって初めての大型作品で、梁や柱、屋根の装飾だけでなく、内部の回廊の灰色と黒の敷石まで忠実に再現している。レゴのパーツに新たな用途を開発し、困難を克服して完成させた。（大白黒提供）

厳密な縮尺計算

「梅花鹿」にはもう一つ驚かされる点がある。厳密な比重の計算と、モジュール化した設計である。この作品は、ほぼ1:1の実物大で、鹿の細長い足で大きな胴を支えなければならず、しかも鹿は横を向いて立っているため、いかに安定させるかが最大の課題となった。身体の各部位の比重を厳密に計算し、まず支えを作って臀部は芯までブロックを詰めて重心を後ろに置いた。さらに、モジュール化の手法を使って身体をいくつかのブロックに分け、展覧会出品などのために運びやすいよう、分解できるようにした。

2014年、「『レゴブロック』で作った世界遺産展」に参加するため、大白黒は台北万華の「龍山寺」を制作した。龍山寺を実際に訪れて100枚以上の写真を撮り、文献や平面図、施工図などのほか、Googleマップの航空写真や衛星画像なども参考にした。建築物全体の柱の数や縮尺を確認するためである。

製作は次のような工程で進められた。まず土台にブロックで龍山寺の輪郭を描いていき、各建物の大小の比率を確認する。高さはレゴ人形の背丈から設定した。

龍山寺の建築物は、牌楼、前殿、本殿、後殿に分けられる。その各所に装飾が施された複雑な建造物を再現するに当り、最も難しかったのはどこかと問うと、大白黒は「実はパーツ探しが一番の難関でした」と言って笑う。

龍山寺の細部を再現するために、彼が最も苦労したのは西洋建築のパーツを、どのように東洋建築に応用するか、そしてパーツの新用途を開発しなければならない点だった。東洋建築の屋根瓦は円柱の部品を組み立てて作り、反り返った屋根の先端にある龍の装飾は、蛇で代用した。門神はモザイクで表現し、龍柱には関節パーツを用いて龍の頭を抽象的に再現している。

内装も手を抜いていない。仏像にはレゴ人形のオスカー像を用い、お供えのミカンや蝋燭、祈願のための光明灯、それに壁面の彫刻や装飾などはさまざまなレゴパーツを用いてモザイク化して表現した。その煌びやかな美しさは本物の龍山寺に引けを取らない。

外観だけでなく、内部まで丁寧に作り上げる。「派出所」の2階の取調室では入れ墨をした人が手錠をかけられて壁のパイプにつながれている。

レゴは世界共通の言語

2014年、大白黒は正規の仕事を辞め、レゴの作品作りに専念することにした。それから初めての大型作品「龍山寺」を完成させると、彼の作品は内外のネットユーザーから注目されるようになった。彼は、英語が苦手なだけでなく、言語や読み書きにも障害があると言って笑い、ネット上の海外からの反響も読めないと言うが、自分は作品を通して世界の人々とコミュニケーションが取れると感じている。「レゴはアートであり、国際言語でもあります。レゴを通して世界の人々に台湾を知ってもらうのが最大の夢です」と言う。

ネットユーザーからの喝采が得たくてレゴの作品作りを始めた彼は、今も新しい見せ方や新たな可能性を探っている。誰も見てくれなくなったらどうするのか、という問いに対し、彼はブログに「舞台から降りる階段をレゴで作るだけ」とユーモラスに書いている。

次の大型作品は、「高雄蓮池潭の龍虎塔」だと言う。「あの造形はものすごい迫力と特色があり、チャレンジのしがいがあるじゃないですか。龍と虎の気迫が感じられる作品にしたいと思います」と大白黒は興奮気味に話す。

1988年生まれの青年は、困難を恐れずチャレンジを続け、レゴを用いて己の故郷である台湾を世界に紹介していく。

趣味と仕事を結びつける。大白黒は企業とのコラボ作品のデザインに、自分のやってみたいことを積極的に取り入れている。写真は茶飲料「純喫茶」のレゴモデル。初めてレゴで漢字を表現した。

古い町並みシリーズの作品「百貨店」。背後の建物は、作品のモデルとなった台北西門町の萬年百貨。