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台湾がAPEC(アジア太平洋経済協力)に参加して今年(2021年)で30年になる。この多角的プラットフォームを通して、台湾は国交関係のない多くの国と交流し、発展の経験を分かち合うとともに、我が国の経済貿易の確固たる実力と世界貢献の力を示してきた。
今年、APEC(アジア太平洋経済協力)議長国を務めたニュージーランドは7月、新型コロナウイルス感染症対策に関して前例のない非公開首脳会合を開催した。我が国を代表してAPEC首脳会議に出席するのは5回目となったTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング)創設者の張忠謀(モリス・チャン)氏は、この会合において、台湾は今後も新型コロナウイルス対策の経験と知識を積極的に分かち合い、APECが団結して感染症対策を行なうことで、世界経済の回復に協力していきたいと述べた。
新型コロナウイルスの影響で、11月の正式な首脳会議はテレビ会議形式で開催された。
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APECに参加して30年、我が国は確固たる経済的実力と国際社会に貢献できる力を示してきた。
台湾の認知度を高める
現在APECに参加しているのは21の国と地域で、GDPは世界の60%、貿易額は世界の約47%を占めている。
APECは、1989年にオーストラリアの提唱で最初の会議が開かれ、台湾は中華台北(チャイニーズ・タイペイ)の名義で1991年に参加した。これは台湾が参加する最高レベルの政府間国際組織だと説明するのは、外交部国際組織司の司長であり、我が国の高級実務者としてAPECに参加してきた呉尚年である。
その話によると、APECでは数々の事前の協議が開かれるほか、首脳が活動する場などを通して互いに交流し、交友関係を結んでいく。例えば2006年にベトナムで開かれたAPEC首脳会議に張忠謀氏が出席した際のエピソードが挙げられる。張忠謀氏は以前、長年にわたってテキサス・インスツルメンツのヴァイス・プレジデントを務めたことがあり、かつてテキサス州知事だった当時のブッシュ米大統領と会談した際には「あなたのことは存じていますよ!」と言われた。そして会議の間のさまざまな場面で両者が熱心に言葉を交わす姿が見られた。これはリアルな会議が開かれてこそできる外交上の積極的な交流である。
APECはアジア太平洋地域の経済協力を促進する重要なフォーラムである。そこでAPECにおける経済貿易面での台湾の発言力を高めるため、1997年、政府は台湾経済研究院に「APEC研究センター」の設立を依頼した。公的・私的部門のAPECシンクタンクとして政策説明や提案などを作成している。
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2006年にベトナムで開催されたAPEC首脳会議で、張忠謀氏と当時のブッシュ米大統領は熱心に言葉を交わした。(外交部資料)
台湾の発展経験を共有
中国信託ホールディングスの首席エコノミストで、APEC研究センター元ディレクターの林建甫氏は、世界をリードする台湾の情報技術分野と、中小企業の発展経験こそ、我が国がAPECにおいて各国と共有すべき重要ポイントだと語る。
林建甫氏はデジタル・テクノロジーを例に挙げる。世界的なデジタル関連の議題に対応するために、APECのビジネス諮問委員会(ABAC)は2018年にデジタル・イノベーション作業部会(DIWG)を設置したが、その初代の作業部会長は我が国代表のABAC委員でPChome董事長の詹宏志氏が務めたのである。
その詹宏志氏の働きかけにより、台湾とパプアニューギニアが共同開催する「第1回デジタル・イノベーション・フォーラム」が台北で開催され、詹宏志氏は作業部会長として、世界的に活躍する巨頭を台湾に招いた。エストニアのトーマス・イルヴェス元大統領、ウィキペディア創設者のジミー・ウェールズ氏、Skype共同創業者のジェフリー・プレンティス氏などである。このフォーラムは「ABCDE」(AI、ブロックチェーン、クラウド、データ、エコシステム)をテーマとし、世界に台湾のデジタルテクノロジーの実力を示すこととなった。
「中小企業に関する分野でも、台湾はAPECで積極的に活動しています」と林建甫氏は言う。中小企業は雇用機会を創出する経済発展の支柱でもある。そこで台湾は2003年から現在まで、毎年APECのプラットフォームにおいて中小企業関連の提案を行ない、国際会議を開いている。その中で、ECプラットフォームやベンチャーキャピタル、アクセラレーター、デジタルエコノミーなどの分野における中小企業の力を示し、APEC首脳会議や閣僚会議においても高く評価され、多くの提案が採択されている。
30年来、APECが扱ってきた議題の範囲は非常に広く、そのため我が国でも最も多くの省庁が参加する国際組織となっている。当初、台湾からは10余りの省庁が参加していたが、現在は60余りの公的・私的部門が参画している。
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ABACに参加する詹宏志氏の働きかけにより、2018年、台湾は第1回「デジタル・イノベーション・フォーラム」を開催し、世界各国から巨頭を招いた。写真左から、ウィキペディア創設者のジミー・ウェールズ氏、台湾ボッシュのマネージング・ディレクター、バーンド・バーキー氏、Skype共同創業者のジェフリー・プレンティス氏、GogoroCEOの陸学森氏。(中央社提供)
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我が国を代表してABAC(APECビジネス諮問委員会)に参加するクアンタ・コンピュータの張嘉淵CTO(右)と、ABACデジタル作業部会(DWG)の部会長、カナダのジャン・ドゥ・シルヴァ氏がオンラインフォーラムの司会を務める様子。(外交部国際組織司提供)
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APEC研究センター元ディレクターの林建甫氏は、アメリカが「インド太平洋戦略」と米中貿易摩擦を重視する流れの中で、台湾にはCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)に加盟できる空間があると考える。
政府部門を総動員
外交部国際組織司の統計によると、毎年各省庁が参加するAPECの実体会議は100を超える。昨年は新型コロナの影響でリモート会議となったが、そのために大小の会議の数は285に達した。このほかに、例年は台湾でもAPEC関連の会議が20~30回開かれている。
9月にAPEC高級実務者会合に参加したばかりの呉尚年は、早くも20年前にAPECの「ビジネス関係者の移動に関する専門家会合(BMG)」に代表として出席していた。「APECで私は基礎から歩んできました。20年前の会議もまるで昨日のことのようです」と言う。
今年、呉尚年は、2分という時間制限の中で、我が国を代表して台湾の新型コロナウイルス対策と収束後の経済回復の経験を堂々と語った。「この国際会議における2分間は、台湾の実力の蓄積があったからこそ実現したのです」と言う。
呉尚年はさらに次のような例を挙げる。昨年11月のAPEC首脳会議・閣僚会議の期間中、我が国の唐鳳(オードリー・タン)政務委員と陳時中・衛生相は「APEC・CEOとの対話」に招かれ、台湾の新型コロナウイルス対策の成功経験を語った。これも、デジタルテクノロジーと公衆衛生面での台湾の成功が、国際社会から注目され評価されていることを示している。
我が国を代表してABACのデジタル作業部会(DWG)に参加している広達電脳(クアンタ・コンピュータ)の張嘉淵CTOは、今年、メンバーを招いて、医療システムにおけるデジタルテクノロジー応用の成果をシェアした。それをまとめた『デジタル・ヘルス・ケーススタディ・リポート』はABAC総会で採択された。台湾のABAC代表による初の具体的なレポートである。
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2020年の「APEC・CEOとの対話」で、唐鳳(オードリー・タン)政務委員は感染症対策にデジタル技術を活かした台湾の経験をシェアした。
台湾における女性のエンパワーメント
APECの閣僚会議では女性と経済に関するテーマも討論される。
第2期のABAC企業代表を務めた宏達国際(HTC)の王雪紅董事長は、第1回ABAC女性フォーラムの議長を務め、優れたリーダーシップと女性起業家の模範を示した。また、米国のアイゼンハワー賞を受賞し、世界経済フォーラムによってヤング・グローバル・リーダーズに選ばれた駱怡君も、2016年に台湾を代表してABACに参加した。ここからも、女性と経済に関するテーマを重視するAPECに、我が国が積極的に対応していることがわかる。
2017年に宋楚瑜氏が我が国の代表としてAPEC首脳会議に出席した時は、政府を代表して50万米ドルを寄付し、アジア太平洋地域の女性の経済的エンパワーメントを促進するために、アメリカとオーストラリアとともに「APEC女性と経済のためのサブファンド」を設立した。宋楚瑜氏は、台湾初の女性元首として蔡英文総統が誕生したことを例に挙げ、台湾の女性のエンパワーメントの成果を強調した。
2015年には、行政院のジェンダー平等処が議長国のフィリピンと共同で「女性と経済発展のためのAPECイノベーションプログラム」を作成し、閣僚会議の「女性と経済フォーラム(WEF)」の議題として正式に取り上げられ、プログラムのタイトルは首脳宣言にも収められた。これは我が国が現在もWEFで積極的に活動できる重要な要因となっている。
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新型コロナウイルスの影響で、今年のAPEC「女性と経済フォーラム」はテレビ会議の形で開催され、我が国からは王美花・経済相(左上)が参加した。(行政院提供)
ブレークスルーと展望
30年来、APECはさまざまな困難に直面してきた。1997~98年にはアジア通貨危機があり、2018年にパプアニューギニアが議長国となった時には、貿易政策をめぐって米中が対立し、APEC史上初めて首脳宣言が採択されなかった。2019年11月にチリで開催された時は、チリ国内の混乱により首脳会議の開催が見送られた。そしてこの2年は新型コロナウイルスの影響で、大部分の会議や会合がオンラインで行なわれている。
数々の危機に直面してきたAPECだが、毎年開かれるAPECのさまざまな会議や会合は、台湾にとって世界に台湾の努力を示す機会でもある。呉尚年によると、我が国からの提案は常に大きな反響を呼び、2021年度は15の提案がAPECの補助金を獲得した。参加国の中でも件数が最も多く、総額は100万米ドルを超えた。
今年はAPECにとって重要な分水嶺となる年だ。1994年に採択された、域内の貿易・投資の自由化を発展途上国も含めて2020年までに達成するという「ボゴール宣言」の目標期限を昨年迎え、APECでは今年、新しい目標として「プトラジャヤ・ビジョン2040」を採択した。首脳会議で張忠謀氏は経済学者マイケル・ポーターの言葉を引用してこう述べた。——自由貿易こそ半導体などの技術の発展をさらに加速させるものであり、すべての国は自国の優位性や競争力を活かして自由貿易の前提の下、ともに利益を得ることができる。台湾は自由貿易の提唱者であり、また自由貿易主義の下の受益者でもある。これこそがAPECの最も重要な精神と言えるだろう。
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2018年、パプアニューギニアで開催されたAPECに参加した各国首脳の記念撮影。我が国からはTSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏(後列左から4人目)が出席した。
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APECに高級実務者として参加する外交部国際組織司の呉尚年・司長。30年来、台湾がAPECに参加することでアジア太平洋地域にもたらしてきた貢献と我が国の成長は、当初の予測を超えるものだと語る。