2019年から見本市の規模として世界3位に躍り出た台北国際工作機械展は、2023年3月に台北で行われた。今回、会場には6200のブースが並び、6000人余りの海外バイヤーがやって来たことで、その規模はコロナ前に匹敵するほどとなり、受注規模は20億米ドルを超えた。

世界三大工作機械メーカーの友嘉実業グループは12を超えるワークステーションに拡張できる機械を展示し、それによって1人のオペレーターが3台の機械を管理できることを示した。また、展示品のもう1台は電気自動車の部品を8.8秒に1個生産できるターンテーブル式多軸加工機械で、業界では「お札印刷機」と言われるほど、高利益が見込まれる製品である。

「デジタル」と「カーボンニュートラル」を掲げて変身を遂げた東台グループは、個別の加工作業から個々の機械、生産ライン全体に至るまですべて「デジタルツイン（Digital Twin）」というシミュレーション技術を使っており、それによってデジタル空間と実際の製造現場を繋ぎ、機械、電子機器、ソフトウェアを統合する力を見せている。

また、百徳機械は工作機械に標準搭載するものとして加工機械CO2排出量計算システムを発表した。これは加工作業時の各種パラメーターによってCO2排出量を算出するもので、将来、すべての部品製造過程でCO2排出量の計算が必要になった場合、顧客がカーボンフットプリント算出や低炭素加工生産を行えるようするものである。

台湾大学機械工学科の覚文喩特任教授は、これらの目を見張るような製品設計は、台湾の工作機械産業がスマート製造、デジタル変革（DX）、持続可能で低炭素といった付加価値サービスを提供できる能力を持つようになったことを証明するものであると指摘している。

機械公会の許文通秘書長は、台湾はスマートマシンの開発を進めることで顧客のニーズに応じたソリューションを提供すると述べた。

スマート製造というチャンス

台湾機械工業同業公会の統計によると、台湾の機械産業の生産額は2017年に1.1兆台湾ドルに達しており、半導体とディスプレイに続く3番目の「1兆ドル産業」に成長している。そして機械産業の生産額と輸出額はさらに成長し、生産額は2022年に1.45兆台湾ドルという最高値を記録した。また輸出額は2022年に348億米ドルとなり、154億米ドルだった2007年と比較して2.26倍に成長している。

台湾機械工業同業公会（以下「機械公会」）の許文通秘書長は、機械工業発展のカギとなった要素は、機械公会が政府と協力して2016年からスマートマシン産業の推進を始めたことであると考えている。

旋盤部門で優等賞を受賞している程泰機械の5軸制御複合工作機械を例にすると、旋削、フライス加工、ホブ盤による切削などの複数の加工製造過程を１台の機械で行えるように機能を統合しており、それによって強力な切削能力を備え、同時に多様で複雑な作業を要求される部品の切削成型を実現させている。程泰機械のブースには漢翔航空工業、宇隆科技などからの発注書が貼られており、そこからもこの5軸制御複合工作機械が航空宇宙や電動自動車など複雑なワークピースが求められる産業分野で高い市場価値を有していることが分かる。

「金属切削のソリューション提供者」を自認する東台グループは、自律移動できるロボットAMRを設計した。このロボットによって原料の投入と抽出を行い、また複雑な切削・複合の加工作業において発生する可能性があるすべての問題を事前シミュレーションで特定し、加工不良や削り屑の問題に対して自動的にソリューションを提供している。

程泰機械の5軸制御複合工作機械は多様で複雑なワークピースの切削成型を実現し、台湾の工作機械産業は航空宇宙や電動自動車など複雑なワークピースが求められる市場への参入を果たした。

工業4.0に向かって

かつて工業技術研究院（ITRI）の機械・メカトロニクスシステム研究所でチームリーダーを務めた許文通秘書長は、現在、台湾の工作機械産業が提供しているのは設備だけでなく、トータル・ソリューションなのだと強調する。

世界の工作機械産業の実態に詳しい覚文喩特任教授は、台湾の工作機械設備メーカーは自らベンチャー企業を立ち上げることでイノベーションを促進し、システム統合（SI）のニッチ市場に切り込むことでエンドユーザーである顧客のニーズに応えていることに気づいたという。たとえば70年近い歴史を誇る老舗工作機械メーカー大手の永進機械はベンチャー企業として達易智造を、コンピュータ数値制御（CNC）大手の新代科技は聯達智能を設立して、製造業のさまざまな変革におけるニーズを満足させている。

航空宇宙、電気自動車（新エネルギー車）分野のパーツは、より高品質で安定した部品を必要としている。許秘書長は、漢翔や鴻海（フォックスコン）が電気自動車産業の参入障壁を排除し、多くの企業の参入を奨励して産業全体の発展のために立ち上げた電気自動車向けのオープンプラットフォームMIHのもと、台湾の工作機械メーカー大手各社は「チーム台湾」として世界の航空宇宙産業、電気自動車産業のサプライチェーンに加わることができたと考えている。

ここ数年、台湾の工作機械メーカーは「台湾クラスター」というコンセプトのもと、国外の見本市に参加し、「台湾館」を置いて海外バイヤーを台湾に引き付けている。そうして台湾を訪れたバイヤーは台湾の情報通信、精密機械、加工技術はいずれも強く、制御装置から加工機械に至るまであらゆるサプライチェーンが小さな島に集中していることを知り、わずか1、2日あれば、欲しい設備はすべて揃ってしまうことに大きな感銘を受けている。

上銀科技のインテリジェントボールねじは、設計段階から省エネ低炭素、持続可能性といったESG（環境・社会・ガバナンス）に向けてソリューションを提供している。

グリーンな工作機械

2050年までにCO2排出を実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラル」という国際的な目標に応え、台湾の工作機械メーカー各社は生産設計、エネルギー管理、生産効率といった分野で省エネとCO2排出量削減のソリューションを考え出し、すでに各地で成功していると許秘書長は述べている。

台中精機は高圧切削に代わる振動切削で使用するコンバータースマートねじを発表しているが、この新技術を使うことで消費電力58％削減という目標が達成できた。

上銀科技が発表した「液中高速ロータリーテーブル」は、モーターに対して発熱分析を行うことで節電し、アルゴリズムを利用して緊急停止を防止するものである。さらにスマートねじ、潤滑インバーターなどのインテリジェントデザインによって省エネ低炭素、持続可能性といったESG（環境・社会・ガバナンス）の枠組みに向けてソリューションを提供している。

台達はインバーター、スマートメーターによってオイル、電力、湿度のデータ収集と分析を行い、機械設備のエネルギー管理をすることで「グリーン工作機械」を実現している。

台湾大学機械工学科の覚文喩特任教授はこう述べている。2023年の「台北国際工作機械展」を見ると、単体機のインテリジェント化はすでに標準搭載となっていることがわかる。そして、台湾の工作機械メーカーは電気自動車と航空宇宙市場のサプライチェーン参入に成功し、台湾の製造業が持つ強靭性を見せつけており、部品メーカーの活躍ぶりも目覚ましく、グローバルサプライチェーンの再構築に迅速に対応し、未来に向けたCO2排出削減に挑戦し、グローバル化というトレンドにおいて、主導的な地位を占めることを目指している。

東台グループは3Dプリンターを使って製造したワークピースによるモジュールを展示している。

産業用ロボットアームは、自動化と人員投入抑制において重要な役割を果たしている。

最新の機械を展示している世界第3位の工作機械メーカー・友嘉グループのブースで、足を止め見学している機械工学関連学科の学生たち。

「2023台北国際工作機械展」はインテリジェント化、自動化、マルチタスク化というトレンドを見せている。