恩人の采配
だが「アート村」構想を聞いて友人は冷や汗をかいた。当時台南誠品書店協理であった曾乾瑜は、2人がいずれ「手を広げすぎて本業をつぶす」ことを恐れ『慢食府城』の作者・王浩一と元ザ・ランディス台北ホテルの副総裁で現高雄餐旅大学教授の蘇国垚;に頼み、2人を説得してもらおうとした。
ところが、台南に一年余りいたことのある蘇国垚;は2人の純粋な熱意に感動し、位置づけをデザインホテルにするよう具体的に提案し、アート発表の場も兼ねるよう勧めた上、経営への協力を約束したのである。「蘇国垚;にとってこんな異色のホテルはとっくにあるべきでした。五ツ星ホテルの格式も標準業務手順もなく、台南特有の真心と友達をもてなすような身近さが強みなのです」蔡佩烜;は語る。
同じくミイラ取りがミイラになった王浩一は分析する。ホテルの所在地は文化の素地が厚い。1970年代建設の佳佳大飯店は、台湾で戦後初の女性建築師・王秀蓮の手になり、多くのディテールが鑑賞に値する。ロビーのしっとりした蛇紋石のフロアに奥床しさが感じられ、ホテルの歴史もこの地でブームになったライブ・ショー文化を窺わせる。近くの西市場には今も日本建築の遺跡が残っているが、元は台南府の運河五条港の末端に位置する卸売市場だった。更に、食の街・海安路、保安路、時が止まったかのような神農老街、台湾文学館や孔子廟といった古跡にも近く、散策の旅に適している。
台南府文化の宝箱
こうして4人は夢のホテル改造計画に打ち込み、内装費4千万元以上をかけて1年間準備し、2009年10月に客室27室の佳佳旅店をオープンした。洒落た空間にアンティーク家具と古都のイメージを配している。客室は1室1テーマとし、漢方薬がテーマの「淮山舗房」、台南の四大月下老人廟を語る「織女線房」、昔の窓を装飾にした「鹿耳窓屋」、運河の古都を再現した「神農街屋」などがある。宿泊料金は3000~5000元、1室5~10坪で同価格帯のホテルより小さいが、デザイン感が人気を呼んでリピーターが3割を占め、休日は満室のことも多い。
佳佳の宿泊客は香港・マカオからが30%、欧米からが10%、他が国内客になっている。見学に来るデザイナーも少なくない。台南での展示のついでに佳佳で開講したりするアーティストもいる。5~6階の6室は、展示用アーティストルームにしている。国家芸文基金会の助成で海外アーティストを招請し、6度に渡りアートイベントを開催した。
アーティストルームには社会批判や中産階級の美的感覚への挑戦が込められている。英芸術史家ジュリアン・スタラブラスがデザインした「路面房」は部屋をストリートに仕立て、シーツはアスファルト舗装の大判印刷、家具は公園のベンチや街灯、クッションはマンホールのフタの図案である。オランダの写真家イアン・バンニングの「真相対質房(Face-to-face)」はホームレスの大型ポートレートを壁に飾り、道端にいる気持ちにさせられる。
インテリアデザインからキュレーターや服飾デザイナーまでこなす蔡佩烜は、古今のモチーフを融合させるのがうまく、生活空間の中にアートを自然に展開させる。