香港マカオと大陸からの観光客の波を受け、古都台南でクリエイティブショップやデザインホテルが雨後の筍のように現れ、華を競っている。パイオニアである佳佳西市場文化旅店(JJ-Wホテル)は、古都の古今の要素と異業種コラボレーションを巧みに織り込み、軽薄短小なのに深みのある旅のブームに火をつけた。
台南市中西区のアートストリート海安路を正興街へ曲ると、平日の午後も観光客が途絶えず、ファッションショップやアイスクリームショップ、ティーサロンが昔ながらの果物屋や仕立屋、宝飾店や古い家屋と共存している。東へ進むと、百年の老木脇に7階建ての白い建物が見える。不規則な形の窓が散りばめられた壁に木陰を映し、美しい景色を作る。「台南三宝」の一つといわれる佳佳西市場文化旅店(JJ-Wホテル)である。他の「二宝」、海安路の藍晒図(青写真)、安平樹屋(ツリーハウス)と共に、著名建築家・劉国滄が主宰する「打開聨合工作室(オープンユニオンスタジオ)」の作品である。
宿泊しなくても堂々と1階ロビーに入り、前身の「佳佳大飯店」が残した広い受付カウンターに手を触れて、台南人の暖かくエネルギッシュな接客哲学を感じることができる。ロビーの一角には美しいオーダーメイド・チャイナドレスと刺繍靴がディスプレイしてある。運がよければ、不定期に開催される台南の味講座や古跡講座に参加したり、金枝演社の「オペラ」レクチャーを観賞したり、画家・郭芃;君について絵筆で台南の色彩を描くこともできる。

古いホテルを改装した佳佳西市場旅店(JJ-Wホテル)は、内と外の空間が交錯する趣ある設計になっている。外壁に飛びだした「樹梯」階段は、台中「台湾タワー」の国際コンペで優勝した日本の建築家・藤本壮介が設計したもので、建物全体がまるで呼吸をしているような感じがする。
「初めてのホテルに観光ルートの中心地を選んで、運がいいと言われます。6年前に工作室が2千万元以上で築40年の不動産を買い取った当時、この辺りが寂れていたとはまさか思わないでしょう」佳佳管理顧問公司と打開聨合文化旅店公司の執行長を務める蔡佩烜;がいう。もっとも1970年代生れの夢想家2人の最初の構想では、ホテルの再生計画はもっとシンプルだった。様々な分野のアーティストを招いて台南を長期的な拠点とし、改修後のホテルをアート村にする。部屋は工房であり展示場であり、芸術家がここで創作して夢を見る。裏通りへ出かけて栄養分を探すのにも便利であると考えた。
古都で歴史文化の栄養に浸ってきた劉国滄と蔡佩烜;は、海外で廃工場をアート村にした例を羨んでいた。だが直接の理由は「藍晒図」で海安路アートストリート作りに携わった「苦い経験」だった。当時カルチャーラウンジとミュージックパブとして始めた「藍晒図」が脚光を浴び、不適切な道路拡張で生気を失った海安路を蘇らせたが、多くのパブやビヤホールも呼び込み、今ではアートは名ばかりで節度ない飲酒文化が幅を利かせる。「自分の影響力を過小評価できなくなり、理想と現実のバランスをより強く願うようになりました」蔡佩烜;はいう。

公共空間ツリーハウスでは一人でコーヒーを飲みながらくつろいでもいいし、アーティストに出会う可能性もある。
だが「アート村」構想を聞いて友人は冷や汗をかいた。当時台南誠品書店協理であった曾乾瑜は、2人がいずれ「手を広げすぎて本業をつぶす」ことを恐れ『慢食府城』の作者・王浩一と元ザ・ランディス台北ホテルの副総裁で現高雄餐旅大学教授の蘇国垚;に頼み、2人を説得してもらおうとした。
ところが、台南に一年余りいたことのある蘇国垚;は2人の純粋な熱意に感動し、位置づけをデザインホテルにするよう具体的に提案し、アート発表の場も兼ねるよう勧めた上、経営への協力を約束したのである。「蘇国垚;にとってこんな異色のホテルはとっくにあるべきでした。五ツ星ホテルの格式も標準業務手順もなく、台南特有の真心と友達をもてなすような身近さが強みなのです」蔡佩烜;は語る。
同じくミイラ取りがミイラになった王浩一は分析する。ホテルの所在地は文化の素地が厚い。1970年代建設の佳佳大飯店は、台湾で戦後初の女性建築師・王秀蓮の手になり、多くのディテールが鑑賞に値する。ロビーのしっとりした蛇紋石のフロアに奥床しさが感じられ、ホテルの歴史もこの地でブームになったライブ・ショー文化を窺わせる。近くの西市場には今も日本建築の遺跡が残っているが、元は台南府の運河五条港の末端に位置する卸売市場だった。更に、食の街・海安路、保安路、時が止まったかのような神農老街、台湾文学館や孔子廟といった古跡にも近く、散策の旅に適している。
台南府文化の宝箱
こうして4人は夢のホテル改造計画に打ち込み、内装費4千万元以上をかけて1年間準備し、2009年10月に客室27室の佳佳旅店をオープンした。洒落た空間にアンティーク家具と古都のイメージを配している。客室は1室1テーマとし、漢方薬がテーマの「淮山舗房」、台南の四大月下老人廟を語る「織女線房」、昔の窓を装飾にした「鹿耳窓屋」、運河の古都を再現した「神農街屋」などがある。宿泊料金は3000~5000元、1室5~10坪で同価格帯のホテルより小さいが、デザイン感が人気を呼んでリピーターが3割を占め、休日は満室のことも多い。
佳佳の宿泊客は香港・マカオからが30%、欧米からが10%、他が国内客になっている。見学に来るデザイナーも少なくない。台南での展示のついでに佳佳で開講したりするアーティストもいる。5~6階の6室は、展示用アーティストルームにしている。国家芸文基金会の助成で海外アーティストを招請し、6度に渡りアートイベントを開催した。
アーティストルームには社会批判や中産階級の美的感覚への挑戦が込められている。英芸術史家ジュリアン・スタラブラスがデザインした「路面房」は部屋をストリートに仕立て、シーツはアスファルト舗装の大判印刷、家具は公園のベンチや街灯、クッションはマンホールのフタの図案である。オランダの写真家イアン・バンニングの「真相対質房(Face-to-face)」はホームレスの大型ポートレートを壁に飾り、道端にいる気持ちにさせられる。

インテリアデザインからキュレーターや服飾デザイナーまでこなす蔡佩烜は、古今のモチーフを融合させるのがうまく、生活空間の中にアートを自然に展開させる。
だが、あまりに前衛的な部屋に客が恐れをなすのではないか。「『真相対質房』の体験で逃げ出した参加者はいます。でもアートで空間の価値を高めるだけでなく、ホテルとクリエイターと訪問客の三者のぶつかりから、文化と芸術と生活の新たな関係を築きたいのです」と蔡佩烜;は訴える。
大衆の参加と共有を求め、アーティストルームは2年来「ギフトエクスチェンジ」の方法で「中で眠る」予約を受けてきた。訪問客がコレクションでも自作のミニアートでも作品に相応しいギフトを持ってくれば、アーティストルームで寝る機会が得られる(宿泊はハウスキープ代が必要)。これまでに40点近いギフトが集まり、ホテルで展示している。
ギフト展のウォームアップとして、今年3月には俳優から監督に転じた李康生による「佳佳に物語あり―録画中です。微笑んで房」と、英国振付家・映像デザイナーのダレン・ジョンストンによる「合覚房」を開始した。二つの部屋は録画装置があるため、佳佳はコラボレートパフォーマンスを企画した。匯舞集のアートディレクター蔡慧貞が、25分間二つの部屋を行き来して作品「幻影」を演じ、撮影と同時にホテル1階のテレビに映し出した。
一般の人でも「ホテル実況ショー」の主役になれる。「録画中です。微笑んで房」の鏡の間にカメラが埋め込まれている。宿泊するには契約が必要になる。カメラが毎日2時間決まった時間に作動し、ロビーのテレビで放映されることに同意する内容である。「内に潜むパフォーマンス欲を大胆に誘う実験プランです。チャレンジをお待ちしています」

インテリアデザインからキュレーターや服飾デザイナーまでこなす蔡佩烜は、古今のモチーフを融合させるのがうまく、生活空間の中にアートを自然に展開させる。
2011年、古いホテルを買い取ったという地主が訪ねてきた。駅前の路地裏に隠れた旅館に第二の春を与えて欲しいという。初めて現場視察した時、皆が樹齢百年のオリーブと街の姿に魅かれた。狭いが部屋数は多いこと、八方に通じる立地は、バックパッカーのニーズに合う。ただし難題は、連れ込み宿のイメージをどう払拭するかであった。
蘇国垚;のソリューションは「女性専門の繊細なホテル」だった。男性は「女性が連れてくる」場合に限る。町の旧名にちなんで「小南天」と名付け、地域との共存を願った。ターゲットが若い女性バックパッカーに決まったら、小さな部屋なら安くできる。空間は「小さくても全て完備」を目標にした。バスルームは狭くてもバスタブを備え、どの部屋にも自然光と老木の風景を取り込む。
駅前商店街に隣接する便利さから、小南天は「予習要らず、運転要らず、気軽な荷物で出かけられる」ライトトリップを呼びかける。佳佳西市場の客層の6割が28~35歳、2割弱が35~45歳なのと比較して、小南天の客は9割が28歳以下で、若い女性の心をつかむのに成功している。

古いホテルを改装した佳佳西市場旅店(JJ-Wホテル)は、内と外の空間が交錯する趣ある設計になっている。外壁に飛びだした「樹梯」階段は、台中「台湾タワー」の国際コンペで優勝した日本の建築家・藤本壮介が設計したもので、建物全体がまるで呼吸をしているような感じがする。
デザインと管理の経験を積み、打開聨合工作室は今や建築設計、管理・開発顧問、佳佳系列ホテルの3事業を展開する。今年5月には台北と台南でアパートを2軒始める。最近1年でカフェ2店、朝食店1店、民宿1軒を開業し、傘下の従業員は百名に迫る。「佳佳西市場旅店の経験から、ホテルがクリエイティブシティの牽引役を務め、広い範囲の文化の旅を作り出せると気づきました」と蔡佩烜;はいう。
昨年台南を取材した大陸の『LOHAS楽活』誌が羨望を込めて語る。台南では若者が低料金で1フロアを借り切り、物価も庶民的である。そこに人が集まり、夢を見て、商売をして、ささやかな暮らしを営み、南台湾のロハスを産み出している。
老朽建築保存運動に取り組む風尚旅行社の游智惟代表は、ライトトリップはきっかけだと考える。いつの間にか旅人の考え方を変え、地域作り、文化伝承、農業発展、環境保護等への関心を植えつける。「皆が出かければ、世界が変わります」

海安路に面したアートラウンジ「藍晒図」からスタートし、プロジェクトチームはデザインと経営管理に優れた能力を発揮してきた。同じく古い民家を改装した正興珈琲館は彼らの新作である。

映画監督の蔡明亮による「蔡明亮房」は素朴かつシンプルで神秘的だ。

インテリアデザインからキュレーターや服飾デザイナーまでこなす蔡佩烜は、古今のモチーフを融合させるのがうまく、生活空間の中にアートを自然に展開させる。

台南の豊かな歴史遺産と庶民の美食、そしてスローライフは多くの旅人をひきつけている。

女性に優しいJJ-Wホテルには多様な公共空間がある。写真は一階の交宜庁。この他にジムや洗濯室、ヨガ・瞑想ルームなどもある。