女書店の経営危機
両店とも人権運動の色彩が強いが、経営方式には差がある。出版社も兼ねる女書店はフェミニズムや女性運動といった硬い内容が多い。売れ筋の『女性主義理論と流派』『彭婉如紀念全集』『女抒herstory』『女書fermbooks』などを出版したとはいえ、経営的にはここ数年厳しい状況だ。
楊瑛瑛さんはこう分析する。2000年の政権交代の後、女性団体を含む各種の社会運動団体は次第に政府に吸収され、パワーや運営能力が衰えた。それが女書店の経営にも影響している。「それに今の大学生はもはや知識を渇望しません。学生の客が減ったことも大きい原因です」
2003年のSARSの流行も女書店にとって大きな危機だったが、閉店を惜しむ多くの読者に支えられてなんとか持ちこたえた。
経営低迷時で1ケ月の損失は6〜7万元になる。それでも、市場に迎合して当初の精神を捨てたくはない、と楊さんは言う。「寄付金などで運営する非営利組織にして経営難を脱するべきではないかと、株主たちで話し合っているところです」
きらめくピンクの晶晶
経営難の女書店に対し、晶晶書庫は好調だ。店内に足を踏み入れると、華やかな色彩が目に入る。淡江大学建築研究所を卒業した阿哲さんは、ピンクを基調に店内をコーディネイトしている。カーテンだけをつけた、内部が見通せるお手洗いがあるのも独特だ。
阿哲さんによれば、第二次大戦時にナチスは同性愛者にピンクの逆三角形の徽章をつけるよう強要した。「ピンクは歴史の傷痕であり、同時にソフト、活発、和解を表します。中が見えるトイレは、台湾人は体に対する考えが保守的過ぎるので、もう少し『解放』されるべきだと思って」と言う。
店は広くないが、晶晶には同性愛やジェンダーに関するものなら書籍、雑誌、漫画、CD、DVDと何でもある。欧米や日本、香港から直接輸入の商品も多いし、「同性愛雑誌には皆が想像するようなグラビアばかりでなく、社会問題や時事分析も載っています」
ムードを一新
晶晶には、Tシャツやタンクトップ、装飾品、コンドームやアダルトグッズもある。海外からの購入やプライバシーを考え、オンライン・ショップも開いており、ロシアから注文が来たこともある。
開店当初は、外から眺めるだけで入って来られない人や、「もっと暗くして外から見えにくくしてくれ」という人もいた。だが、同性愛文化を堂々と明るみで展開しようと決めていた阿哲さんは譲らなかった。「やがて社会の考えも変わって、今やお客さんのほとんどが堂々と店に入って来ます」
同性愛者だけでなく、ジェンダー問題に関心がある若者も来る。「異性愛の女の子も男性同性愛を扱った漫画が好きです。主人公がたいてい美少年だからということもあるし、性別描写があいまいで、女性も自己投影しやすいということもあります」
家賃の高騰に備え、経営上手な阿哲さんはローンで今の店舗を買い取った。店舗を所有する書店は、温羅汀では数少ない。
だが悩みもある。晶晶は長年、地域住民と良好な関係を築こうと努めてきたが、まだ偏見は残る。「『同性愛者は目立ってはいけない』といった考えは根強いです。このビルの一人の住民が最近『商店が看板を掲げるにはマンション全住民の同意が必要』というマンション管理条例を持ち出して、うちの看板をはずすよう要求してきました」と阿哲さんは言う。
海外読者の聖域
経営には差があるものの、華文世界では貴重な存在の女書店と晶晶書庫は、海外からはるばる訪ねて来る人も多い。「海外のお客さんは、台湾にはこういう書店があることを羨みます」と女書店の楊さんは言う。
独自の領域を守ってきた両店は、台湾社会の多元文化尊重を物語り、このエリアを華人世界で最も考えの開けた場にしている。これも一つの「台湾の誇り」ではないだろうか。