あるがままに
西洋の宗教は感謝を教えるが、中国哲学も困難を乗り越える道を教えている。
「信仰の道は神に頼ることができるが、修養の道は自分が頼りです」と中央大学哲学研究所の王邦雄所長は説明する。キリスト教やイスラム教では己を神に託すことを教えるが、中国の儒教、道教、仏教の三大教が教えるのは自己開発の道である。己を道とし、自らの道の主となる。人生の苦しみは自分の心を解き放てないことからくる。
老荘思想を40年にわたって教えてきた王邦雄は、著書『老子道』で、道は自然であり、己で歩むものだと述べている。自然の道には陽光と水と空気がある。太陽に従って歩み、この世の一角に根をおろせば、天地の間に道は無限に広がる。
大きな世界の小さな人間
百年前、自殺研究で知られるフランスの社会学者デュルケームは、人と社会の関係を指摘した。動乱や戦争、飢饉など社会秩序が混乱する時に自殺率が変化するからである。
楊明敏も、人の心理は社会や環境を反映すると言い、恋人にふられて自殺したある青年のケースを挙げる。この自殺は個人的行為のようだが、別の見方をすると、この男女は二人とも不完全な家庭に育ち、二人は不完全な家庭しか再現できなかった。背後には社会的要因があると楊明敏は指摘する。
台湾社会を見渡すと、景気は低迷しているが、人々の心の健康は保たれているようだ。
精神健康基金会の蔡盧浚執行長によると、2010年、基金会が台湾の成人を対象に行なった調査では、精神面の健康指数は平均4.15(百点満点の83点に相当)、過去数年の調査より高かった。
最も高いのは家庭の健全さで87.4点、続いて人生の掌握が83.8点、心身の健康が82.3点、個人の価値が78.5点である。
「家庭の価値が非常に重要です」と蔡盧浚は言う。この調査の結果、台湾の4人に1人は自分は何の団体にも属していないと考えており、帰属感を持たない人の心の健康指数はやや低い。また家族と同居していない人は同居している人に比べ、下の世代に対して悲観的な割合が10ポイントほど高く、家族と一緒という帰属感が少子化改善や精神の健康面でもプラスに働くことがうかがえる。
燭をとって夜に遊ぶ
世の中の環境は個人が左右できるものではない。天が雨を降らせるのを私たちは止めることはできないが、それをとらえる見方を変えることはできる。
逆境は人生における大雨のようなものだ。天を恨んでじたばたするのではなく、力を抜いて雨を楽しめばいいではないか。
人生の昼は短く、夜が長いのであれば、長い夜、燭をとって遊んではどうだろう。