成人式を迎えた後
「今後は引き算を学んでいくつもりです」3月からは草草戯劇節(演劇祭)の準備、4月には『十殿』公演、そして「台湾文博会(クリエイティブ・エキスポ)」にも参加することになり、てんやわんやの忙しさを招いてしまった汪兆謙は、ため息をつく。「18歳までは血気盛んで、自分にはこんなことができると証明して皆に見てもらいたい。だからあちこち走り回って何でもやりましたが限界があります。自分の名刺を2300万人の全台湾人にくばりたかったほどですよ」だが「成人式」を終えた今はもう大人だ。落ち着いてもっと完成度の高いものを目指し、『十殿』もさらに多くのバージョンを重ねて完成させ、時代に残る代表作にしたいと考える。
この18年間、劇団は演劇だけでなく、計画的に地元に根を下ろしてきた。阮劇団には現在専属の脚本家がいて、脚本創作の人材を育てるためのプロジェクトもある。当初は俳優も各地から集まってきたフリーランサーが多かった。だが嘉義までわざわざやってくるのも大変なことだ。「台湾に演劇のエコシステムを作ってみようと思うのです。力のある作品が常に生み出せるようなシステムを。そのためには人材の確保が必要です」阮劇団は未来への投資として3年前から地元で俳優養成を始めている。
今回の『十殿』の制作も「史上最高の贅沢さ」と言われるほど充分な時間をかけてフィールド調査し、脚本を練った。俳優もこの劇1本にしぼって大丈夫な報酬が出たので、掛け持ちで仕事をする必要もなかった。他の芝居にあるように公演3日前にやっと舞台の様子を知るというようなこともなく、劇団への出演者の信頼も高かった。
阮劇団設立当初から、芸術は社会にとって重要だと信じてきた。地方の子供たちが演劇を楽しみ、芸術を生活の身近なものとしてくれるよう努めてきた。また、対象を青少年に限定し、彼らの芸術教育や視野を広げるため「草草戯劇節」も催した。「芸術の公共性ということに私は興味があります」と汪兆謙は言う。「これは一人で奮闘して百歩進む話ではありません。百人が揃って一歩を踏み出す話なのです。自分のエネルギーのすべてをかける、これは人が生きるうえで大切なことです」まさにこの言葉が、阮劇団が常に全力投球していることの証明になっている。
映画や舞台で経験を積んできたベテランの荘益増が演じる邱老師は占い師でもある。
高齢者介護や外国人労働者、無差別殺人、引きこもりといったテーマも取り入れた『十殿』は、じっくりと味わう価値のある作品だ。
「輪廻道」の中で、汪兆謙はマジックや模型、プロジェクションなどの技法を用い、従来の演劇とは異なる世界を作り出した。