六つの城、七勇士
「パンダリアン」の物語は、聖書の天地創造から始まる。主がノアに箱舟を作って洪水から逃れよと命じた時、たまたまピピパンダの1頭がそれを耳にした。さあ大変と、パンダ一族も自分の小さな箱舟を作るのだが、暴風雨の中で小さな箱舟は大波に巻き込まれ空に放り上げられる。パンダたちは何とかして大きな箱舟を引っ掛けようとするのだが、そこから誰も知らない不思議な歴史が始まる。
主はノアに魔法の杖を与えていた。洪水が引いてからこれを地面に突き刺せば、大地は春となり万物が生まれるはずだった。ところが、この魔法の杖をピピパンダが引っ掛けて、共に宇宙に放り出されてしまうのである。そこにはドーナッツのような奇妙な星があり、TVビーン島、知恵の村、オリンピック・タウン、闇の魔城など、奇妙な6つの城があった。
どうしてノアの箱舟をテーマに選んだのかと聞いてみると、唐智超さんは笑いながら、自分の家は汐止にあってしばしば洪水に見舞われる。そこで洪水を物語に取り入れたのだと答えた。しかし、「パンダリアン」は一人のアイディアから生まれたのではなく、チームの集団創作である。
頭の体操
「主役のキャラクターは決まっていました。そこでこのタイプの人はどんなキャラなのか、そのキャラからどんな事件が起こり、どう反応していくかを考えたのです」と「パンダリアン」製作の主力の一人呉采薇さんは、2年前のストーリー構想の過程を思い出しながら話す。
毎週2回の頭の体操の時間、チームの数人が集まってストーリーのしりとりを始める。パンダはなぜ地球に戻れないのか。聖書の内容と合わなくならないのか。パンダ一族は一体何頭いて、それぞれの関係はどうなっているのか。そんな疑問に対して、ああでもない、こうでもないと言っているうちに、大笑いとなったり、絶妙の答えに感嘆したりする。時には「ちょっとダサすぎない」とか「バツ、バツ」といった声も出る。しかし美術デザイン担当の古建平さんは、みんなの途方もない想像をその場でホワイトボードに絵にして、キャラクターの動きの下絵を描いていった。
「RollCoCo社は常にチームワークが一番です。チームの力は個人の総和を超えると信じていますので、この会社では個人的色彩を打ち出さず、英雄主義を好みません」と呉采薇さんは言う。チームの中で自在に自分のアイディアを表現しながら、ほかの人の批判を受け止め、時にアイディアを放棄したり妥協しなければならないというのは、気位の高い新人にとっては中々残酷な試練である。中にはむかっ腹を立てて、もう口も利きたくないと言い出す人もいる。しかし、チームの中のリーダー格は、創作力といいリーダーシップといい敬服せざるを得ないため、怒って辞めてしまう人は少ないのである。
パンダの目の魅力
創作の仕事では、アイディアが一切の元になり、これこそ求めても得られるとは限らない宝である。アイディアの源泉とは何だろうか。個人の天分とかセンスもあるが、各地を旅行して豊富な経験を持ち、触角が広く、しかも熟慮するタイプの人は、よいアイディアが次々に出てくるものらしいと、呉采薇さんは気がついた。古建平さんによると、型にはまらない思考方式が創作の必要条件となる。
古さんは自分が好きなストーリーを例に説明する。人間の世界においては目の周りのクマは嫌われるが、美しいメスのパンダは自分の目の周りが黒くないので悩んでいた。最後にピピパンダの長老がサングラスをかけることを教えてくれて、彼女は自信を取り戻したのである。
「他人と異なることを恐れてはなりません。誰でも自分の方法で人に認められ友情を勝ち得られるのです」と、最近父親になったばかりの古さんは解説を加える。
無論のこと、長いストーリーの展開において、時に同じ所を行きつ戻りつして、袋小路に入ってしまうことがある。こんな時は、やり直すしかない。やっとストーリーの原案ができて、香港の脚本家葉紀文氏にシナリオを依頼してからも、ここで修正が加えられるのである。
こういった永遠に終りのないような推敲を通じて、時に一人二人の天才を挫折させるかもしれないが、そのおかげでストーリーはより受け入れられ、売れるものとなると古さんは言う。RollCoCo社の幹部は映画経験が豊富だ。明確な個人のスタイルがあり、芸術的雰囲気の濃厚な台湾映画が、ここ数年は売れず、誰も見ない映画になってしまっている現状を見ると、自分はその二の舞は踏むまいと思うのである。
誰に売るのか
集団創作によってストーリーに一般向けの通俗性を持たせると共に、ネットも恰好のテストになる。「パンダリアン」の主役のピピパンダと冒険のメンバーは、ネットにデビューすると大変歓迎され、掲示板に批判の言葉を残すと大反撃に遭った。しかし、1年前にRollCoCoが製作したキャラクターのCoCoPlay、動物の頭の子供4人組は、ネットで「寒すぎ」とか「死刑、もう出てくるな」と散々の不評であった。キャラクターのストーリーも、当然うやむやに終わった。
「パンダリアン」がデザイン賞で成功したというのも、審査員の中に「これをどう売るのか」「これが売れると思うのか」を基準に評価する業界代表がいたためだと、唐智超さんは語る。様々な売れるアイディアを寄せ集めた「パンダリアン」は、こういった審査員に高く評価されたのである。
さらに言うと、RollCoCo社は小さいながらも国際的なチームを作り上げた。呉采薇さんはアメリカ育ちだし、シナリオの葉紀文さんは香港の大学で教える映画とマルチメディアの教授である。「永遠の凝視」を製作して受賞した陳上文さんは、現在アメリカで映画を撮っている。芸術ディレクターの曹智偉さんは、最近フランスで開催予定の台湾芸術イベントのために台北とパリを往復しており、これも国際的な視野をもつ人材と言えよう。
さらに、わが国の映画会社は中国的色彩を武器に国際舞台に乗り出そうとしているのに対し、唐智超さんは台湾風だとか異国情緒、さらには西洋と東洋の出会いといったテーマに興味を示さないのである。
西遊記を例にしても、「外国人にしてみれば、人とサルとブタ、それに怪物が出てくる冒険物語に過ぎず、日本の桃太郎と変わりはないでしょう」と言うのである。事前の知識なしに映画を見て理解しようという外国人に対して、単純化したストーリーで、しかも歴史や文化の深さを見せようというのは、不可能なことなのである。「パンダリアン」の受賞は、審査員の半分が外国人で、文化的色彩をもたないファンタジーが受け入れられたということでもある。
資金調達はどうする
「パンダリアン」は1回22分で13回分のシナリオまでできており、第1回については具体的な細部まで完成している。但し、RollCoCo社のチームは企画とデザイン、キャラクターデザイン、ストーリーやシーン設定に当たり、実際のアニメ製作は外部委託することになる。
ところが、アニメの製作コストはきわめて高くつく。1回当り20万米ドルとすると、全体のコストは数千万台湾ドルにのぼり、RollCoCo社のような小さなベンチャービジネスに負担できるものではない。現在までのところ、唐智超さん自身も製作資金の問題から「逃げている」ところである。構想から2年余り、やっと形が見えてきたアニメも本当に製作できるかどうか未知数に過ぎない。
膠着状態から抜け出し、これまでの作業を無駄に終わらせないために、RollCoCoとは別にTVビーン社を設立し、ピピパンダのキャラクターグッズの版権ビジネスに乗り出した。国内と日本の携帯電話向けのダウンロードを開始し、先月は中国大陸の携帯電話会社とも契約し、またスケートボードや絵本なども製作している。
育て、ピピパンダ
TVビーン社は、創作がビジネスへと変化するメカニズムと位置付けられ、会社の事業範囲を次第に拡大していき、ビジュアルアートのマネジメントを行うと共に、後続のアニメ製作力を強化する。
TVビーンの版権ビジネスとマネジメントの責任者林秀璐さんは、30代の若さと積極性で創造性と経営を結び付けたいと話す。TVビーンはすでにネットの人気キャラクター製作者と契約したが、こういった手法はわが国では初めてである。しかし外国ではすでに普通の手法となっていて、これからキャラクター・ビジネスが成熟していく鍵となるであろう。
これまでの5年間の奮闘を振り返り、唐智超さんは「覚えておこう、このアニメ大国は一匹のネズミから始まったのだ」と言ったウォルト・ディズニーの言葉を引いて、小さなピピパンダも大きな木に育っていくことを期待するのである。