ランを追い求めて
「稀少種のランはどれだけ追い求めても見つかるというものではなく、運も必要です」と鐘詩文は言う。
『台湾野生蘭:観賞大図鑑』の作者林維明にはそんな幸運がもたらされた。台風が過ぎた後、烏来の山地に出かけた友人が倒木を拾ってきた。その倒木に着生したランを世話していたところ、しばらくして開花したのだが、それは数十年来、台湾では姿を消していたフタバランの一種だった。「台湾大学出版の植物誌のデッサン画を見ていたので見分けがつきました」と彼は言う。
山中で採集してきたリパリスというランは、開花まで育ててみて、姿を消したと思われていたリパリス・アマビリスであることが分った。また林維明が発見し、中国名「維明豆蘭」と名付けたBulbophylum albociliatum var weiminanumは2004年の霧交じりの日に、南部横断道路近辺の海抜1800メートルの広葉樹林の中で発見した。株の様子が変わっていたので、何株か採取して栽培してみたところ、バルボフィラム・アルボシリアタムの変種であることが分った。
気象局に勤務していた林維明だが、野生のランへの情熱に駆られて、職を辞して台北からタイまで20年間ランを追い続けている。これに対して鐘詩文は大学時代からランのマニアで、その後、植物分類学の研究に進んだ。彼らはランを追い求めて心血を注ぎ、ほの暗い大自然の秘密を見つめ、それが数冊の台湾野生蘭図鑑に結実した。
大樹出版社が2003年に出版した林維明の『台湾野生蘭:野外観賞大図鑑』には、野生のラン100種余りが記録されている。2006年になって『台湾野生蘭観賞大図鑑』上中下3冊に大幅に拡充され、280種を収めた。2014年には英語版が辜厳ذس雲植物保種センターから出版され、2012年現在、台湾原生のラン428種が紹介されている。
2008年に林務局と台湾植物分類学会が共同で、鐘詩文博士の『台湾野生蘭』上下2冊を出版し、362の種及び変種野生ランを、自然の中での写真と共に記録した。2015年には猫頭鷹出版社が『台湾野生蘭』を基に編集し直し『台湾野生蘭図誌』を出版し、409種が収録された。2016年には『台湾原生植物全図鑑』計8巻が出版される予定で、これに記録される4700種の台湾原生植物のうち、野生ランは469種に上る。
林業試験所でランを研究する鍾詩文は苦労を厭わず野生のランを追い求め、天の恵みを実感することもあると言う。