「阿忠シェフ」として知られる黄徳忠は、現在「頂級国宴」の総料理長と中国文化大学の講師を務める。

自らデザインした花柄の調理服は、その得意とする酒家（台湾式料亭）料理と同じように華やかだ。

阿忠シェフの親は宜蘭県三星で食堂を開いていた。台湾では「食堂を開けば三世代がきりきり舞いする」と言われてきた。その言葉通り、阿忠シェフは9歳の時から店を手伝い始める。14歳で職人に師事して宴会料理を習い、17歳になると台北のレストランに就職し、以来ずっと厨房で働いてきた。

「光華楼」では潮州出身の退役兵から潮州料理や福州料理を習い、「紅宝石」では広東料理を学び、「青葉」では台湾料理、「美麗華」では西洋料理、そして最後は「杏花閣酒家」で酒家料理を学んだ。

「調理を学ぶ者は労働時間が長いなどと言ってはいられません。ボスを怒らせたら即クビですよ」と笑う。

かつて、見習い調理師はベテラン料理人の技術を傍らで見ながら盗み取るしかなかった。そんな中で阿忠シェフ好きなのは「腕が良くて博打好きなシェフ」だった。彼らは宴会と博打の時間が重なると、こっそり厨房を抜け出すために、見習いに調理方法を教えてくれたからだ。調理の秘訣の中には、傍らでどんなに見ていても分からず、言葉で教えてもらって初めて知ることもあるのだ。

有名な酒家料理に、非常に手の込んだ「通心河鰻」という一品がある。まず鰻の骨を抜いて、骨のあった部分にシイタケやタケノコ、ハムなどを詰める料理だ。阿忠シェフによると、鰻は揚げてから蒸すとうまく骨を抜くことができる。

「氷のフライ」の作り方。――氷を餅でくるみ、それを網脂でしっかり包み、卵液、小麦粉、パン粉をまぶして揚げる。

「お客様に喜んでいただくためなら何でもしなければなりません」と阿忠シェフは酒家文化を語る。酒家では、料理に特色がなければお客は来てくれないので、誰もが知恵を絞って新しい料理を創作した。酒家料理は一般のレストランより創意を重んじ、次々と新しい料理が生み出されていった。

酒家では珍しい料理を作るために、特殊な食材を集めることから始めた。鶏腰（鶏の腎臓）、皇冠（鶏のとさか）、鴨舌（アヒルの舌）、鴨掌（アヒルの水かき）、鳳足（鶏の足）、龍根（豚の目玉）、天梯（豚の歯ぐき）、肚尖（豚の胃袋）などを大変な苦労をして集めた。「アヒルの舌などは、アヒル20～30羽でようやく一皿の料理になるんですから、これが珍味でなくて何でしょう」

食材が珍しいだけではない。酒家では手間のかけ方と見栄えが重視される。「色、香、味、形、器のすべてを重視します」と話す阿忠シェフは、仏様に金の衣が必要なように、料理も化粧を施さなければならないと言う。例えば「孔雀開屏」や「彩虹蜈蚣蟳」などは、シェフの包丁の技と忍耐力が試される華やかな前菜だ。

「孔雀開屏」は、酔蝦（酔っ払い蝦）や焼鴨（アヒルの丸焼き）、レバー、ハム、アスパラガスなどを薄切りにし、孔雀の羽根のように並べたもの。「蜈蚣蟳」は、まず蟹の身をほぐし、ハムや野菜、髪菜、金糸卵など、赤、緑、黒、黄色の食材と彩りよくムカデの形に盛り付けた一皿だ。力強さがあり、食べやすい料理である。

「氷のフライ」は、お客に無理な難題を押し付けられて生まれた料理だと言う。

魔法のようなこの料理は、まずカキ氷を球状に握って餅でくるみ、それを網脂で包み、小麦粉と卵とパン粉をまぶして油で揚げたものだ。130℃の油で2分余り揚げてお客の前に出すと、外側はサクサクして中は温かく、真ん中のカキ氷はまだ溶けていないのである。

阿忠シェフによると、酒家に来るお客は皆お金持ちなので、喜ばせることさえできれば、たくさんのチップがもらえた。氷のフライは原価は80～90元ほどだが、お客は1～2万ものチップをくれたそうだ。

「氷のフライ」の作り方。――氷を餅でくるみ、それを網脂でしっかり包み、卵液、小麦粉、パン粉をまぶして揚げる。

酒家を後にして長年が経つが、阿忠シェフは今も当時と同じように創意を凝らし、新しい料理を次々と考案している。

陳水扁総統の時代、阿忠シェフは二度にわたって国賓晩餐会を担当し、宜蘭特産の肉巻、鴨賞（アヒルの燻製）、胆肝（醤油漬け豚レバーを干したもの）などを晩餐会のテーブルに載せた。また、馬英九総統の国賓晩餐会では、挽肉とナスを用いて「名馬過橋（名馬が橋を渡る）」という料理を作り、馬頭魚（アマダイ）を用いた鍋料理「馬頭火鍋」を創作した。

阿忠シェフは十数年前に台湾料理のレストラン「頂厨国宴」をオープンした。レストランは故宮博物院や忠烈祠などの観光スポットに近いため、外国人観光客が大勢訪れる。日本、韓国、ヨーロッパ、アメリカ、シンガポール、マレーシアなど世界各地からの旅行者が阿忠シェフの店で、鴨賞、胆肝、地鶏、滷肉飯、魷魚螺肉蒜（スルメとサザエと葉ニンニクのスープ）、三杯鶏、仏跳牆、紅糟米糕、紅糟肉といった本格的な台湾料理を味わう。

阿忠シェフは、最初は中国大陸からの観光客の好みが良く分からなかったが、醤油が欲しいというお客が多いことに気付いた。また、大陸の人々は「甘み」のある台湾の醤油に馴染めないのに気付き、塩に変えた。今では大陸からの観光客には幾つかのソースを用意している。「かつて台湾人が海外旅行に豆腐乳を持っていったのと同じですよ」と言う。

手の込んだ「酒家料理」を食べたい人は、予約さえすれば、その技を思う存分披露してくれると言う。

「氷のフライ」の作り方。――氷を餅でくるみ、それを網脂でしっかり包み、卵液、小麦粉、パン粉をまぶして揚げる。

「氷のフライ」の作り方。――氷を餅でくるみ、それを網脂でしっかり包み、卵液、小麦粉、パン粉をまぶして揚げる。

「氷のフライ」の作り方。――氷を餅でくるみ、それを網脂でしっかり包み、卵液、小麦粉、パン粉をまぶして揚げる。

「氷のフライ」の作り方。――氷を餅でくるみ、それを網脂でしっかり包み、卵液、小麦粉、パン粉をまぶして揚げる。