国内に留まる誘因
弾力的給与プランは、年功給を基礎に実績給の概念による変動を取り入れたものだ。
財源は教育部と国家科学委員会から出される。前者はトップ大学育成プランと大学教育卓越奨励プランからそれぞれ10%ずつ拠出し、これを大学がフレキシブルに用いる。この二つのプランの対象となっていない大学は、教育部の1億元の補助金に別途申請することとなる。
国家科学委員会の方は、各大学や研究機関の研究プロジェクト業務費から6.5%の約10億元を拠出する。国家科学委員会の研究プロジェクトを多く実施している学校ほど運用できる金額も多くなるという計算だ。
国家科学委員会の張清風・副主任委員によると、弾力的給与プランが実施されて一年余り、すでに120校の教授や研究員3700人が月1~20万元の補助金を得ており、人材の確保に顕著な成果を上げていると言う。
例えば中興大学では、給与が低くて勤務時間の長い「臨床獣医師」の多くが中国大陸に引き抜かれていたが、その状況が大きく改善された。
翁啓惠・中央研究院院長によると、以前は中央研究院の新人研究員の給与は6~7万元で、外国の十数万元と比べて低かったが、弾力的給与プランが実施されてからは、30%の費用を新人の待遇改善に当てられるようになったという。アシスタント研究員の中で優れた業績を上げた者の給与を最高で月5万元上げることができ、人材の確保と招聘に大きな力を発揮しているという。
大学間の不平等
だが、この制度には課題もある。ある大学の経済学部教授によると、学部会議での弾力的給与についての話し合いは、まさに資源の奪い合いだと言う。ベテランで資源を多く持つ教授が自分の給与を上げ、そうでない若い教授は「残り」にしかありつけないのだそうである。
政治大学の呉思華・学長もこう批判する。現在の弾力的給与プランの財源は主に教育部の「トップ大学育成プラン」と国家科学委員会の予算であるため、もともとこの二つの部門からあまり補助を受けていない大学では、弾力的給与に当てられる予算も少なくなる。例えば、トップ大学プランで30億を得ている台湾大学は3億元を弾力的給与に当てられるが、政治大学は2億元なので、弾力的給与に当てられるのは2000万だけである。
また、国家科学委員会の審査に合格したプロジェクト数を基準とするのも妥当ではないという声がある。国家科学委員会の補助対象は理系が中心で文系は少ないからだ。
「政治大学の教員が、台湾大学や清華大学より優秀ではないとでも言うのでしょうか。ましてや、文系の教員は実験室や研究チームという繋がりがないため、引き抜かれる機動性がより高いのです」と呉学長は指摘する。
行政院の朱敬一・政務委員は、確かに現状では「理系が文系より重んじられる」疑念があると認める。将来的には、国家科学委員会の他に、教育部、経済部、農業委員会など他の省庁の研究プロジェクトも加えて評価し、人文科学系にも同様の誘因をもたらしたいと考えている。
一方、大学内での分配の公平性については、大学の自治の原則があるので政府は介入を控える考えだが、将来的には一定の割合を新人の待遇改善に当てるよう指導する可能性もあると言う。
業績給導入によって学界が新たな手段を得たことは、人材確保への第一歩と言えよう。