ビッグデータを社会に
データの付加価値を活用して理想的な社会を目指すには、データを自由に利用できる「オープンライセンス」が重要な鍵となる。台湾では2012年から政府がデータの公開(オープンデータ)を推進、翌年にはオープンデータ・プラットフォームを立ち上げた。これによって行政の透明性を高めるとともに、人々が付加価値のあるデータを応用することで、さらに多くの新たなサービスが生まれることを目指す。例えば降雨警報と組み合わせた農業灌漑システムや、大気汚染のリアルタイム予測など、いずれもオープンデータの活用から生み出されたものだ。
政府によるオープンデータ・プラットフォームが開設されてすでに10年、デジタル発展省(以下「デジタル省」)は、各界からの提案を取り入れ、気候環境、防災救援、交通運輸、健康医療、エネルギー管理、社会支援からなる六つのテーマをプラットフォームに設定している。各テーマをクリックすると、さらに細かいカテゴリーに分かれている。例えば、「社会支援」のテーマに入れば、「エイジフレンドリー」「恵まれない人への平等な権利」「福祉援助」などのカテゴリーがあり、いずれも解決策を皆で見つける必要のある注目されるべき問題が示されている。「テーマ別にしたことで情報の精度が高まりますし、各省で調整して以前は開示されていなかった情報を公開できます」と唐鳳(オードリー・タン)デジタル相は言う。
ただ、情報の公開は一夜にしてなるものではなく、官民の協力が必要となることが多い。「緑色公民行動聯盟(GCAA)」が立ち上げた「透明足跡」プロジェクトはその一例だ。これまで環境保護運動といえば、現場での抗議行動が主流で、政府、企業、市民の間には不信感が満ちていた。「私たちはどうすれば運動のジレンマを打破し、対話の場を作れるか、ずっと考えてきました」と、GCAAの曽虹文・副事務局長は言う。
GCAAの第一歩は、環境情報の公開だった。客観的なデータを対話の基礎とすれば、それぞれが自らの主張だけを語るという膠着状態を打破できる。GCAAが政府と協議を重ねた結果、企業の排気・排水に関するリアルタイムのモニタリングデータ、企業の違反行為に対する制裁の記録などがオープンデータとなった。また、ハイテク関連のコミュニティグループとの協力によってデータベースが作られ、「透明足跡」のサイトで利用できるようになった。曽虹文によれば、毎月約10万人のアクセスがある同サイトは、企業がサプライチェーンを把握したり、金融業界がグリーン投資を行ったりする際の参考資料として活用できる。「透明足跡」によって、環境データを市民が監視ツールとして使え、また企業が環境への社会的責任を果たすよう促すことができる。これがオープンデータの持つ力だ。
10年、最近は市民によるイノベーションを促進するため、応用価値の高いデータを掲載したページが設けられている。(同サイトより)