インディーズの台頭
以前から、台湾には信頼できるヒットチャートがない。ラジオ局が発表するランキングやレコード会社が公表する売上枚数なども、宣伝のために操作されているという。それでも、インディーズが流行音楽市場の一角を占めつつあることを示す痕跡はある。
信頼性が高いとされる「五大唱片」の華語売上チャートを見ると、2006年初、メジャーのスター王力宏と周杰;倫と並んで、全く宣伝していないインディーズバンド「自然捲」が入っている。同年12月にはバンド「潑;猴」「董事長楽団」「蘇打緑」が入った。また、メジャーレコード会社に属しているがインディーズの色彩が濃い楊乃文と雷光夏、それにベテランロッカーの伍佰など、ランキングのトップ20の中に自作自演のミュージシャンやバンドが6組も入っている。
売上だけを見ると、やはり市場の大部分はメジャーが占めている。しかし、メジャーレコード会社は千万単位の宣伝費を投じるため、10万枚以上売れても赤字だ。それに比べると、インディーズや自作自演のミュージシャンは、売上はそれほど多くないものの、宣伝や販売の費用がかからず、分衆市場も形成されているため、むしろ安定して利益を得られる可能性が高いのである。
アメリカやイギリスでは、インディーズが独自のチャートを出している。例えばビルボード誌のモダンロックチャートは大学のキャンパスラジオのランキングだ。これによって、18〜30歳、大学以上の学歴を持つ若者の好みがわかる。台湾にはこのような統計はないが、インディーズとシンガーソングライターのファンはアイドルスターの消費者とは異なるグループで、メジャーとインディーズは完全な競争関係にあるわけではない。オリジナルのバンドやアーティストはすでに一つの分衆市場を生み出しており、以前は華語ポップスを聞かなかった人々を取り込んでいる。
融合を模索
インディーズやシンガーソングライターが勢いに乗っているが、メジャーレコード会社もこれに期待を寄せ、融合と共生の道を探ろうとしている。しかし、メジャーのこれまでのアイドル育成方法があだになり、この試みも決して順調ではない。
98年にバンド「乱弾」が金曲賞最優秀グループ賞を受賞した時、彼らはステージで「バンドの時代が到来した」と叫んだ。99年に「五月天」のファーストアルバムが大ヒットした時には、メジャー業界もバンド黄金時代を期待したものだ。しかし、メジャー業界はバンドのマーケティングを知らず、成功しなかった。
98年には、文化大学の詞創部の学生が結成したバンド「薄荷葉」がバンドブームの中で注目され、メジャーから契約の声がかかった。「でも条件として、ギタリストを女性に変え、女性バンドを売りにしたいということでした」とボーカルの林倩;さんは、腹を立てつつおかしそうに言う。
ブリティッシュロック風バンド「拾参」は2001年にメジャーレコード会社からアルバムを出した。だが「五月天」の成功モデルを再現しようと、レコード会社は彼らを作詞作曲のできるビジュアル系のグループとして売り出したことが、ファンの嘲笑を買った。会社は千万単位の宣伝費をかけたが、アルバムは1000枚しか売れなかった。その後6年を経て、彼らは2006年末にインディペンデントレーベルからアルバムを出した。彼らは曲作りからミュージックビデオ撮影まですべて自分たちで行なった。ボーカルの徐徳宝は、以前は何事もレコード会社に口を出されたので、今回初めて自分たちのアルバムを出せたような気がすると言う。
2006年に予想に反して張懸のアルバム「My Life Will…」が3万枚売れたが、この作品は実は5年前に完成していた。ただメジャーレコード会社から「商業的でない」と発行を断られ、ライブハウスでの活動を続けていた。ライブ活動でファンがつきはじめたため、ようやくレコード会社が試しに発行することとなったが、ネット上での予約だけで6000枚も注文が入ったのである。
新たな局面
現在のクリエイティブブームの中で「メジャーレコード会社はまだ目を覚ましておらず、昔からのアイドル創出手法にこだわっています」と翁さんは指摘する。一方のインディペンデントレーベルは力を蓄えつつある。
実際、インディーズはメジャーの敵なのではなく、華語音楽のブルーオーシャンとして市場をより豊富にするものである。
次々と生まれては消えていくアイドルに比べ、深みのある音楽こそ一時の流行を超え、人々を感動させるのである。
台湾のメジャーレコード会社とその主なアーティスト
ソニーBMG 王力宏、楊丞;琳、F4
ワーナーミュージック 孫燕姿、張惠妹、5566、飛児
EMI 蔡依倫、陶喆;
ユニヴァーサル 張学友、陳逸;迅
エイベックス 王心凌、羅志祥、伍佰
アルファミュージック 周杰;倫、江惠
ロックレコード 五月天、梁静茹
整理:張世倫 作表:魏錦華