対応が難しい院内感染
ウイルスに対するウイルスボムの効果が認められると、今度は感染力が強く、対応が難しい細菌への応用が模索され始めた。中でも抗生物質がほとんど利かない多剤耐性のNDM-1が、その目標である。
NDM-1は、多剤耐性遺伝子をもつ酵素で、細菌の染色体外でコピーされ、大腸菌や肺炎桿菌に存在し、感染するとNDM-1腸炎感染症を起す。最初にニューデリーの病院で発見され、それからパキスタン、香港など各地で報告されている。
多剤耐性のNDM-1が恐ろしいのは、ほとんどの抗生物質が利かない点で、臨床的にはわずかにチゲサイクリンやコリスチンなどは効果があるというが、主に人の免疫に頼るしかない。
2010年9月にTVBSテレビのカメラマン二人がインドで銃撃に遭って重症を負ったが、うち一人が現地の病院でNDM-1に感染したことが分り、帰国後にパニックとなったことがある。幸いこの人は症状が出ず、一定期間の隔離後に自然治癒して、国内感染には至らなかった。
しかし患者から培養された菌は学界から注目され、多剤耐性菌の院内感染に関心が高かった長庚大学医学生物技術研究所の頼信志所長は、これを機会にNDM-1の研究に乗り出した。
病院の環境は暖かく多湿で、消毒液を用いて日夜殺菌を繰り返しているが、生き残る細菌は僅かながらいると、頼所長は言う。NDM-1以外にもアシネトバクターや黄色ブドウ球菌などが多剤耐性の細菌である。
病院に存在する多剤耐性菌は、健康な人にはあまり影響しないが、ガン末期や臓器移植後など免疫力の弱い患者に感染しやすい特徴がある。感染すると治療が難しく、手術後の重症患者に大きなリスクとなるので、院内感染菌の管理が頭の痛い問題となっている。
ウイルスボムはウイルスだけでなく、最も手ごわいスーパー細菌NDM-1を殺すこともできる。左は研究スタッフがNDM-1をシャーレに植え付けるところ。右はNDM-1を異なる濃度のウイルスボム溶液に入れた後。300ppm以上の濃度のウイルスボム溶液の中ではNDM-1は生きられないことがわかる。