高密度のクリエイティビティ:富錦街
富錦街と民生東路5段を中心にした延寿街・新中街までの町並みは、ほとんどが5階建て以下、築30年以上のアパートメントで前庭があり、建築設計、広告デザイン、映像業者などが進出している。特に、緑濃い富錦街は交通量の多い通りから離れ、俗世の束縛から放たれた楽園となっている。
民生コミュニティは約3平方キロで大きくはないが、台湾初のアメリカンスタイルのモデルタウンであった。1967年に500万ドルの米国資金援助で作られ、ゆったりした空間が半世紀を経て、台湾随一のクリエイティビティ密度となった。
統計によるとこのエリアのデザイン・映像業者は200社を超える。20軒に1軒はデザイナー、監督、プロデューサー等クリエイターがいる計算になる。映画、テレビドラマ、ミュージックビデオのロケも多く、映画『台北の朝、僕は恋をする』は新東街で、『台北カフェ・ストーリー』『ターンレフト・ターンライト』は富錦街でロケが行われた。
富錦街に店を構えて二十年以上になる「吉祥草茶館」は、畳、引き戸、すだれ、屋外の赤い扉と柱、庭の花と老木が東洋風である。多種ある茶は、香りも味も長年変わらない。館主は鹿谷の実家の農園の茶を自ら焙煎して品質を維持している。
静かな新中公園の向かいでヨーロッパのシティサイクルを専門に扱う「輪粋生活」は、シックでシンプルな趣きである。自転車を所狭しと吊り下げている普通のサイクルショップとは異なり、十数台のユニークなタイプの自転車と、あとはサドル、サイクルウェア、バンダナ等のアクセサリーが少し置いてあるだけで、優雅なレジャーをイメージさせる。シティサイクルの多くはイギリスやデンマーク製で、折りたたみ、デザイナーズ、ハンドメイドを看板に、品位を重んじる都会人に他とは違った足を提供している。富錦街を選んだのは、広い木蔭の歩道で試乗できるからだという。
2台置かれたハーレーが目印の「AGE SPACE」は1970年代にデザインされた商品を扱う。店主はインテリアデザインが専門で、店の奥はデザインオフィスになっている。百を超えるプレイヤーやレコードをコレクションしていたので、たくさんの人に楽しんでもらおうと店を出した。店には宇宙飛行士の丸いヘルメットとロケットの曲線に発想を得た1960年代のペンダントライト、椅子なども集められ、クラシックなデザイン年代の文化が窺える。
こじんまりした富錦街に生活用品店やフラワーショップ、スローライフのコーヒーショップが増え、付近の通りにも影響を与えて、特有のカルチャーライフスタイルを形作っている。
アメリカンスタイルを残した富錦エリアには、サイクルショップ、古いレコードを扱う店、落ち着いた茶館などがあり、ゆったりとした時間が流れる。