手間をかけた本格派の料理
例えば「京味醤焼銀鮑菇(エリンギの北京ソース煮)」は、薄く焼いた小麦粉の皮にテンメンジャン風味のエリンギをのせ、細く切ったキュウリと一緒に巻いていただく。肉を食べる人ならわかる通り、これは北京ダックを模した菜食だ。もう一つの「雪菜金磚」は雪菜という漬物と豆乾を炒めたものを、さらに湯葉で包み、切り分けて美しく盛り付けた料理だ。おいしさが口いっぱいに広がり、タンパク質も豊富で、肉料理にまったく引けを取らない。
肉を食べる人をうならせるには、どうすればいいのだろう。詹昇霖によると、精進料理ではネギやニンニクで香りを出すことができないため、厨房では野菜で香りをつけた油を別途作っているそうだ。セロリ油、ニンジン油、シイタケ油などがあり、野菜の香りと調味料の組み合わせを工夫することで、従来のゴマ油のみの菜食とは違う味わいを出している。
菜食料理は肉を中心とする料理とは違うため、最も多く見られるのは野菜と他の植物由来の食材を炒めた料理だが、彼らは出来合いの素材への依存を減らし、職人の手作業の技が際立つ料理を作ろうと、香港式飲茶を菜食に変化させ、これによって新たな市場を開くことに成功した。
ミシュランガイド台北で5年連続してビフグルマンに選ばれた「祥和蔬食」は、また異なる工夫をしている。ベジタリアンの四川料理をメインとする祥和蔬食の責任者である呉慧萍は、信仰の関係で菜食主義になり、自分の味覚を満足させるために、四川料理の香辛料を用いることにした。花椒や五香、菜食の沙茶ソースなどの香辛料と、きめ細かな調理でベジタリアンの四川料理を生み出した。例えば看板料理の「塔香脆腸」は、ゆでたエリンギを繊維に沿ってほぐし、トウガラシやバジルなどを加えた特製ソースで炒めたもので、モツ炒めのような食感が楽しめる。
台湾はすでにベジタリアンブランドの戦国時代である。菜食の飲茶を開発した「養心茶楼」、四川料理を取り入れた「祥和蔬食」、日本のうどんをメインとする「穂科」、善果グループ傘下の「上善豆家」などが有名ブランドである。
黄聖傑は、これまでに多くのコンビニやレストランチェーンの菜食商品の企画に加わってきた。大きなブランドの成功は菜食市場全体の発展を促し、すでに少なからぬ飲食業者がこれに追随している。スターバックス、マクドナルド、ピザハットなども、ベジタリアン向けのメニューを加えている。十数年前、黄聖傑が大学生だった頃は、学内のたった一つの菜食屋台で4年間食事をとり続けた。ベジタリアン仲間で集まる時には、麺を売る小さな食堂に行くしかなかった。現在とは大きく異なる。国民だけでなく、外国人旅行者も台湾のベジタリアンフードに驚くことだろう。
信仰が盛んな彰化には齋堂や寺が林立している。清代に建てられた「曇花仏堂」は菜食を推奨したことから「菜堂」とも呼ばれる。
フェイスブックで「素食・美食」を運営し、菜食を推奨する黄聖傑。
ベジタリアンフードのビジネスチャンスに目をつけ、セブン-イレブンでもオリジナルの「天素地蔬」ブランドを打ち出した。
数年にわたってミシュランガイドのビフグルマンに選ばれている「祥和蔬食」には、外国人旅行者も多数訪れる。
工夫を凝らした味付けと職人の技で、菜食料理もおいしいものになる。