自身に返る保全への取組み
「今日の鳥類は、明日の人類」とは、映画監督の梁皆得さんが『老鷹想飛』(FLY, KITE FLY)で、人間社会に投げかけた警告だ。タイワンヤマネコの置かれた状況にも同じ意味があると考える林育秀さんは、「タイワンヤマネコを気にかけることは、自分自身を大切にすること」と語る。
私たちは南投県鹿谷郷にある駿原農場の主人・廖宥勝さんの農地にやってきた。一歩踏み出すたびに無数の昆虫が飛び上がるほど生い茂った草地は、全てタイワンヤマネコの保全のためのものだ。
生多所が普及を進める「タイワンヤマネコ・フレンドリーラベル」は、農家が草生栽培を実践し、野生動物に害を与える資材を使用しない、空き地を確保する、犬や猫を放し飼いにしないなどの条件を守ることを奨励するものだ。タイワンヤマネコやその他の生物に安全で自由な環境を用意し、生命感あふれる環境を作ることが目的で、葉物野菜のかじられた跡が、取組みの何よりの証拠だ。廖さんは「かじられたり、見た目が良くないものを除けているんだ」と、収穫したレタスの半分近くをそのまま畑に残していた。化学農薬を使用していないため、野菜はそのまま食べられる。一口食べると口に広がる香りは、土地を守るというこだわりから得られた最大の贈り物だ。
同じく「タイワンヤマネコ・フレンドリーラベル」を獲得した南投縣竹山鎮にある果樹園の主人・呉圮台さんは、レモンを主に栽培する。丘陵地の小さな果樹園では雑草が一面にふくらはぎまで伸び、オオバナノセンダングサの白い花が満開で、多くの蝶や蜂が引き寄せられている。雑草が生い茂ることで昆虫が多く寄ってくるが、草地で腹を満たすとレモンの木には登らないらしく、虫害は意外にも減り、レモンが美しく育つのだとか。
防ぎようもないほど蔓延るツルヒヨドリについては、「手で引っこ抜けばいい。追いつかないものは仕方ない」とあっさりしたものだ。実は、かつて草生栽培に段階的に転換していかなかったことで、果樹の約半分を枯らしてしまったことがある。だが、たとえ損失が大きくても、将来的に除草剤などの資材の使用を減らしたいという呉さんは「生態系のバランスを維持するには、(果樹が)淘汰されるなら、それでいいんだ」と語る。
廖宥勝さん、呉圮台さんらの生態系保全への思いと、集元果農場などタイワンヤマネコに友好的な農家の収穫物は、「蕉織環創所」が展開するタイワンヤマネコ青果箱に詰められる。それを一般の人が購入することでタイワンヤマネコの生息地確保に繋がることが望まれている。
林育秀さんは、タイワンヤマネコの「ドウザオ」が自然に放たれた後、最近、ある農家の果樹園の近くで映像が捉えられたことを教えてくれた。「タイワンヤマネコからのフィードバックはかなり大きいですよ」と語り、フレンドリーラベルの効果がわかる最高の証拠だとする。
タイワンヤマネコの保全はこれで終わりではない。タイワンヤマネコ、ひいては自然環境全体を脅かす既知・未知のリスクは依然として数多く存在しているからだ。この土地の人たちが関心を持ち続けることでこそ、浅山のマスコットたちが再び山林を駆け回れるようになるのだ。
タイワンヤマネコの保全と個体数増加の道のりはまだまだ先が長い。(提供:タイワンヤマネコ保全協会)
生物多様性研究所の保全教育展示コーナーでは、タイワンヤマネコの形態や特性などを詳しく紹介している。
タイワンヤマネコ飛び出しのホットスポットに設置された警戒標識は、道路利用者に徐行運転をするよう注意を促している。
自身の鶏舎がタイワンヤマネコに進入された経験を持つ呉兆耀さんは、今では地域のタイワンヤマネコ保全の推進役の一人だ。
鶏舎改善資金調達プログラムは、資金を提供するだけでなく、養鶏農家のフェンス設置協力ボランティアの募集も呼びかけている。(提供:タイワンヤマネコ保全協会)
果樹園を管理する呉圮台さんは、近隣住民からの助言とは反対の草生栽培に今もこだわる。
生い茂った雑草を踏みしめながら、作物の生育状況を見て回る駿原農場の廖宥勝さん。
生物多様性研究所は、広報活動や講座を通じて、タイワンヤマネコに関する情報や知識を地域社会に広めている。(提供:農業部生物多様性研究所)
タイワンヤマネコの「ドウザオ」は自然に放たれた後、山の尾根に沿って南下し、南投の農地付近に棲み付いたことが最近判明した。(提供:農業部生物多様性研究所、撮影:王威翔)
苗栗県西湖郷の五龍宮広場の前に設置された「タイワンヤマネコを守る媽祖」の像は、タイワンヤマネコが身近に生息していることを思い出させてくれる。