植樹は、神様のお導き
ここまでやって来て「無報酬」で植樹することが如何に大変かが実感できた。宋文生は、以前の自分は甘かったと語っていたが、現実には財源がない以上、若い世代に向かって、故郷に戻り植樹をしろと呼びかけるのは難しい。しかし、宋は、ユーモアたっぷりに続ける。「我々原住民には、三人の金メダリストがいます。2020年東京オリンピック重量挙げ金メダリストの郭婞淳、2021年柔道グランドスラム・アブダビの金メダリスト楊勇緯、そして、植樹金メダリストの私です」
「原住民族は、誰よりも山林のことを知っています。私もどれだけの木を植えるべきかはっきりわかっています。」と語る宋は、植樹と山林の保護を原住民のために専門化分業化させる構想を打ち出した。もし財源があれば、若者を故郷に引き戻すことも可能となる。父親が宋を山林に連れて行ったのと同じように、宋も若者を連れ回すことが可能となる。山林を感じ取り、大地に触れることで、初めて民族の言語や文化がひとりでに受け継がれていくのだ。しかし、宋は、固有種を植樹するという理念は共通でなければならないと強調してこう付け加えた。「さもなければ、一本が100万台湾元の値がつく牛樟(カシ)なぞ、頼まれても私は植えたくない」。
宋文生一家の植樹の物語は、ソーシャルネットワークで公開されると反響があり、宋は、屏東県霧台郷愛郷発展協会を設立し、月額100元で木一本を育てられる里親制度を開放した。里親には米国人、フランス人がおり、こうした里親は多くはないが、幸いなことに、台南社区大学の受講者たちが山に登り、草むしりや力仕事を分担してくれている。
山腹の入り口には、植えられたばかりの若い苗木があり、地面の立て札には、共同保護者の名前が記されている。ドレセドレセによれば、植樹する土地、財源、人材が不足しているという。年間3000本の木を育てる里親がいれば、財源が得られ、より多くの人に植樹の仲間入りをしてもらえ、霧台で失われた600ヘクタールの山林が復元できる。
ドレセドレセは、自分たちが山林復元の仕事に専念できたのは神に選ばれたからだと信じている。「神様は、私たちができると確信していたからこそ、私たちを選んだのです。私が天国に召された後も、少なくともこの木々は引き続きこの土地に残って、私たちの子孫を守ってくれるでしょう」と言う。
宋文生の一族は、大母母山系の3か所の植樹区、合計約100ヘクタールの山林に、アラカシ、タイワンケヤキ、フウなど1万株近くの苗を植えて来た。山を下りる前に、宋は、山中の樹木を指差しながら「私は天国からお呼びがかかるまで、ここを離れることはありません」といい添えた。
現代フランスの文学者ジャン・ジオノのベストセラー小説『木を植えた男』は、名声、財産、見返りを求めず、残りの人生を植樹作業に捧げ、不毛の地を人々が心安らかに暮らし、働くことができる緑の珠宝とでも言うべき庭園に変えた孤独な羊飼いの姿を描いている。その無私の精神によって、荒れ果てた土地は、乳と蜜の流れるカナンの地に変えられた。この本に、世界中の何千万人もの人々が心を動かされた。
台湾版の「植樹する男」である宋文生と妻のドレセドレセは、山林への愛を台湾を守るという行動に移した。そして、我々も心の中に「山林を守る」という苗木を植え、山林と土地を愛する心を行動に移すべきなのである。
宋文生一家は霧台郷の山に植樹をして生態系を守っている。苗を植えるだけでなく、草や蔓を取り除くなどの手入れをすることで、苗木の生存率が上がり、良く育つ。
人々が宋文生の植樹の理念に賛同し、苗木の里親となり、共に山林を守っている。