青春の詰まったレコード
この宿で、外国人客は、客家の家屋や祖先を祀った神棚など伝統的なものに興味を示すが、台湾人の客はここで青春時代を懐かしむ。1970〜90年代の台湾華語歌曲全盛期のレコードが5000枚以上あるからだ。
鍾士為はDJさながらにリクエストを受ける。基隆から来た黄さんは、三毛作詞、林慧萍の歌う「説時依旧(話は昔のように)」を、一人の中年男性は陳淑樺『跟'A説 聽'A説』B面の「無言的表示」をリクエストした。「無言的表示」は、初恋の女性との思い出の曲だと言う。
蔡琴のファーストアルバム『出塞曲』に収録され、映画『インファナル・アフェア』で再ヒットした「被遺忘的時光(忘れられた時)」もリクエストが多い。90年代のヒット曲では、羅大佑『之乎者也(なりけりべけんや)』、蘇芮『搭錯車(乗り間違え)』、張雨生『天天想'A(日々君を思う)』、齊秦『狼』、ロックレコード制作の『快楽天堂(ハッピーパラダイス)』、潘越雲『天天天藍(日々青空)』などがある。ほかにも意外なところでは、台湾映画『新桃太郎』オリジナル・サウンドトラック、瓊瑤原作『六個夢』のテレビドラマ・テーマ曲、天安門事件がきっかけで作られた『戦争與和平』まである。まるで宝探しを楽しむかのように、青春時代の歌に出会える。
最も大切なレコードはと問うと、鍾士為は数あるヒット曲にはふれず、母がよく聞いていたという「地球最美麗的時候(地球が最も美しい時)」を挙げた。これは音楽家の李泰祥が、知的障害のある子供のために作った曲で、美しいメロディを李泰祥と許景淳がデュエットしている。この歌はヒットには至らず、CDにもならなかったが、彼と母をつなぐ大切な音楽だ。
民宿のレコード室で、母の愛した「地球最美麗的時候」をかけ、鍾士為は2歳の娘を抱いて踊り出した。仕事を辞めて故郷に戻った後は、家族といられる時間も増えた。レコードがそばにある暮らしは、忘れられがちだが最も大切なものを彼に教えてくれる。それは、じっくりと人生を享受し、暮らしを味わうことだ。
前世紀に一世を風靡したレコードは、今でもそのゆったりとした確かなペースで、純粋な音楽を楽しませてくれる。
もし、じっくりと音楽に耳を傾けることが久しくなかったという方は、レコードを聴いてみてはいかがだろう。心穏やかに、耳を傾けることを楽しんでみては。
レコード盤を一枚選び、リスニングルームでその音色に浸る。
レコード盤を一枚選び、リスニングルームでその音色に浸る。
(上の一番左)「一千個春天」は天水楽集が発売した華語フォークの名盤である。
(上の左から2番目)「搭錯車」のサウンド トラックは蘇芮の最初のアルバム。
(上の左から3番目)「8と2分の1」は李寿全が華語楽曲に捧げた記念碑的作品。
(上の一番右)「地球最美麗的時候」は李泰祥の自作自演アルバム。
「バナナとレコードの宿」には80~90年代の華語楽曲のレコードが揃っている。
伝統の三合院建築とレコード盤という思いがけない組み合わ せで、「バナナとレコードの宿」は高雄市美濃の注目のスポットとなっている。
伝統の三合院建築とレコード盤という思いがけない組み合わ せで、「バナナとレコードの宿」は高雄市美濃の注目のスポットとなっている。