オリジナルよりリ・デザイン
フランスの著名デザイナーのフィリップ・スタルクは、来台した際に、台湾またはアジアのデザイナーの問題は、オリジナリティがないことだと指摘した。新しいものが作れなければ西洋の主流に追随する他ない。また企業がデザイナーに自由な空間を与えず、雑誌の写真を示して「こういうものを作ってくれ」と要求するのではオリジナリティは生まれない。
業界で20年のキャリアを持つ台湾科技大学工商業デザイン学科准教授の鄭金典は、これは台湾特有のOEM産業と関わっていると言う。これまで台湾企業はオリジナリティを求めず、むしろ「オリジナリティはリスク」とさえ考えてきた。本来のデザインを改良し、よりコストを下げることで利益を上げてきたのである。今はブランド意識が高まり、オリジナリティの重要性が認められている。
では、何から着手すればいいのか。鄭金典は、オリジナリティを育てるにはデザイン教育から始める必要があると考える。例えばスタンフォード大学では、デザイン会社IDEO創設者のデビッド・ケリーが2004年にデザイン学部長に就任し、デザインの角度から問題を解決する「デザイン思考」という修士カリキュラムを設けた。
これはデザインを「人」を中心とした思考へと高めるもので、美や機能だけでなく、製品自体のコンセプトから生産工程、さらには人々の幸福にも配慮するという考えだ。
あるカリキュラムでは、商品化できる製品を3ヶ月以内にゼロから考案し、実際に行動に移すこととなった。
学生のエリカ・エストラーダは、インドで水道・電気もない貧しい地方を旅した時に、宿泊先の女主人が毎日暗闇の中をランプひとつで牛に餌をやりにいっていたのを思い出した。
そこで彼女は、既存の光電技術と簡単に手に入るコーラの缶を用いて原価10米ドルに満たないLEDライトをデザインした。これが1年で200万本も売れ、彼女は会社を設立して引き続き低価格で環境に優しい太陽光照明設備の開発を続けた。現在は40余りの途上国で販売されている。彼女のように、このカリキュラムから起業に成功した例は少なくない。
このカリキュラムは全米を席巻し、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学もこれに倣うようになった。米ブルームバーグ・ビジネスウィーク誌はこれを「従来のビジネススクール教育に取って代わる新たな思考」と評している。
台湾ではさまざまな分野でデザインが力を発揮し、都市に新しい表情をもたらしている。写真は2010年のパブリックアート・フェスティバル開幕式。