パフォーマンス・アートと国民外交
鄭恵中の布衣精神は多くの人に受け入れられ、日本や中国大陸にも愛好者がいる。彼は、身体こそ最小の劇場であり、衣服は一種のパフォーマンス・アートと考えている。それをわかる人に出会えれば、互いにその布衣の生活スタイルを分かち合うこともあり、また時には芸術団体との間で、衣服と作品を交換する方式により、間接的にそのパフォーマンスを支援している。
優表演芸術劇団、莫比斯円環創作公社、江之翠南管劇団、台北市立国楽団などの芸術団体が鄭恵中の衣装を使用しており、最近ではこういった芸術団体のために舞台装置の設計も手掛けている。こうした活動から、布衣も豊かな応用の空間を獲得することになった。
「舞台装置や衣装をデザインすることで、人体の活動時の必要性をより理解でき、運動機能に即した裁断が可能になり、衣服の中の人体に、より多くの呼吸空間を生み出せます。服装をさらに省察するチャンスなのです」と語る。
2015年にイタリアのミラノで開催された国際博覧会で、ミラノの大聖堂からほど近く、古い建物に囲まれた台湾館で、ボランティアが身に着けたのはイタリアの国旗の色を使った台湾農家の伝統的な衣服であった。これも鄭恵中の提供によるものだが、鮮やかなビジュアル効果で現地のマスメディアの目を引いた。取材に応じた彼は、建築、ファッション、美食を併せて国際舞台に紹介し、台湾人の生命力を表現したいと語った。
鄭恵中は、世界の舞台で台湾のために声を上げる機会があれば、それを逃すことはない。「布衣のデザインは台湾人の生活文化に根差すもので、私の選択は繊維から販売まで全面的な理解に基づいています。これにより生の全体を体得し、この製造過程を伝承することで、布衣の精神を世界に紹介していきたいのです」と語る。
布衣の製作は、歴史と伝統の検証を重ねたもので、衣服の初心を取り戻すものである。
着衣は一つのパフォーマンスアートでもある。写真は桃園大渓の田園で演奏する「楽興之時」交響楽団。(鄭恵中提供)
2015年のミラノ国際博覧会で、台湾館のボランティアが着た布衣は外国のメディアからも注目された。 (鄭恵中提供)