企業は敵ではなく友である
寄付の多寡で分けることに意味はないが、企業からの寄付は量も種類も個人からのそれを大きく上回るため、フードバンクの需要にかなう。ただ、食の安全に関わるトラブルが生じた場合は寄付した側も責任を負わなければならず、そのため多くの企業がなかなか踏み切れずにいる。
そうした中で、昨年はカルフールとケロッグがミューズリー1万箱を慈善団体に寄付し、そのうち6000箱は全民フードバンク協会に贈られた。カルフールでは継続的にオートミールや缶詰、粉ミルク、成人用おむつ、健康食品などを寄付しており、カルフール文教基金会の黄怡君・幹事長によると、昨年以来、同社は800万元相当の食品を寄付しているという。「賞味期限が迫った食品の寄付は台湾では始まったばかりです。フードバンクに対する企業の理解はまだ浅く、接触も多くありません」とカルフール文教基金会の呉柏毅・執行長は話す。
これに比べると、欧米のスーパーは早くからフードバンクとパートナーの関係を築いてきた。
アメリカの大手スーパーであるクローガー、セーフウェイ、スーパーバリュー、ウォルマート、ターゲット・コープはいずれも長年にわたってフードバンクと協力しており、何万トンもの食品を寄付している。中でもクローガーは、アメリカ最大のフードバンクシステムであるフィーディング・アメリカの創設メンバーであり、理事会のメンバーでもある。
フランスのカルフールは、2002年からフードバンク連盟へ不定期の寄付を開始し、冷凍設備や物流にも資金を提供している。同連盟は2011年に74万人に1億7800万食分、合計9億トン近い食品を配布した。
呉柏毅によると、台湾カルフールも2年前にこれを実施しようとしたが、当時台湾にはまだ協力できる団体がなかった。そうした中で、昨年全民フードバンク協会が正式に「グローバル・フードバンキング・ネットワーク」のメンバーとなり、協力関係が結ばれたのである。
賞味期限の迫った食品をフードバンクのシステムを通して必要としている人に配布できれば、企業にとっては自他ともに利益を得られることとなる。ただ、呉柏毅が心配するのはフードバンクの管理や流通にトラブルが生じると、食品に問題が起きる可能性があり、そうなると寄付をした企業が責任を負わなければならないことだ。
「善きサマリア人」を罰しない
「フードバンク法を定めるべきです。寄付をした企業の法的責任の免除と税制上の優遇を定めれば、企業には大きな誘因になります」と呉柏毅は言う。
フードバンクに関する台湾の立法は西洋より10年遅れている。1996年10月、アメリカではビル・エマーソン食糧寄付法(善きサマリア人の法)が成立した。聖書に出てくる、ユダヤ人を助けるサマリア人に倣って善を行なうことを奨励するもので、同法の精神は、善意で寄付した食品が原因でトラブルが生じても、故意や重過失がない場合、寄付した側の法的責任は問わないとする点にある。
近年は物価が上昇する一方、給与は上らず、失業率も高止まりしているため、フードバンクが注目されるようになり、台湾の立法院でも法の制定のために公聴会などが開かれている。
現在、民進党の立法委員・林佳龍が発起し、34人の委員が連署した「フードバンク法草案」は委員会の審査に付されている。その重点は以下の通りだ。①県・市政府は財政状況と需要にかんがみ、自ら、または公益団体に委託してフードバンクを運営する。②寄付品に問題が生じ、他者の権利が損なわれた時、寄付者に故意または重大な過失がない場合は刑事および民事責任を負わない。③寄付物資の実際価格で税の控除を認める。④中央主管機関は全国的なフードバンク情報システムを設置し、県・市を越えた資源補完に供する。⑤県・市の衛生局はフードバンクの衛生安全検査に積極的に協力する。
立法を求める声に対し、中央の主管機関である内政部は既存の「社会救助法」に「実物給付サービス」という章を加える方向で検討している。7月23日以降は、新しく設立された政府の衛生福利部がこの業務を担当することとなる。
「社会救助法」改正案がまだ立法院に提出されていない現在、民間団体は、企業の寄付に多くの誘因を設けるべきだと提案している。例えば陳堅智は、寄付の項目や賞味期限などの条件によって税率を変え、賞味期限の迫った食品は控除対象とするべきではないと主張する。さもなければ、良からぬ企業はフードバンクを賞味期限切れ食品の廃棄手段としてしまう。
アメリカでは1975年に、連邦政府が全米各地に新たに設けられた18のフードバンクに5万米ドルを提供して協力した。これと同じように「国はフードバンクを政府の責任の一部ととらえるべき」と陳堅智は言う。アメリカでは現在、政府がフードバンクに資金の5〜15%を提供している。
だが、欧州では政府が大きな役割を果たしてはいない。慈善団体が配布する食糧は、アメリカでは年間100万トンなのに対し、イギリスでは年に1.5万トンで食糧消費全体の1〜3%に過ぎないのである。
スチュワートによると、イギリス政府は社会福祉制度で貧富の格差を是正できると考えており、フードバンクの機能をあまり重視していない。一方のアメリカではフードバンクを社会の集団互助と考え、福祉ではなくヒューマニズムととらえている。
「台湾ではフードバンクは始まったばかりなので、後から補うのではなく、先に法令を整えるべきです」と陳堅智は言う。ポスト福祉時代を迎えた台湾で、私たちはフードバンクを育てていかなければならない。