阿里山の生物多様性
張副教授は2年かけて阿里山の植物調査を行い、『以阿里山之名植物図誌(阿里山の名を持つ植物図誌)』を発表した。阿里山の見どころは鉄道文化だけでなく、ひとたび訪れれば暖帯~温帯の植物を見ることができるし、広葉樹林から針葉樹と広葉樹の混交林への林相の変化が見渡せる。また欧米ではなかなか見ることができない熱帯植物、ツル植物、シダ植物も見ることができる。
とりわけ台湾はシダ植物に恵まれ、その数は1000種近い。雲霧帯に位置する阿里山には低地から高地まで200種以上が生息しており、植物の多様性を十分に示している。「すでに知られている5000種近い台湾固有種のうち、阿里山の名を冠するものは120種もあり、『台湾』の名を持つ植物の次に多いんですよ」と張副教授は言う。
中でも阿里山でしか見られないものは、稀少植物写真愛好家を引き付けてやまない。たとえば阿里山賓館、生態教育館にはそれぞれ大きな松の木「阿里山松」がそびえ立っているが、これもまた阿里山ならではの景観だ。その下で松ぼっくりを拾ってみると、鱗片が反り返っている「台湾五葉松」のものとは異なり、「阿里山松」の鱗片は直立していて、よく見ると種子に羽が生えている。
張副教授によると、世界に現存する裸子植物は少なく、1913年に日本人植物分類学者早田文藏が「阿里山松」を発見した際、多くの研究者はそれを五葉松の一種だとした。しかし、張副教授は調査によって阿里山松が五葉松とは異なることを明らかにし、先進機器がない時代に厳密で正確であった早田文藏の学識は尊敬に値すると語った。
塔山から森林鉄道の眠月線で山を登れば、阿里山でしか見られないトウゲシバの仲間「阿里山千層塔」を見ることができる。小さな緑色のブラシのようなこのシダ植物は、他のグループとの遺伝的交流がなく、眠山と塔山一帯に隔絶された状態で生息している。薬草にもなるが稀少なため絶滅の危機に瀕しており、早急な保護と個体数の回復が必要とされている。
春は阿里山でも花見シーズンで、初春から4月にかけて40種もの桜が満開を迎える。阿里山は台湾で最も多くのソメイヨシノを有しているが、開花時期が一番早いのはヤマザクラ(ヒカンザクラ)だ。その名に「阿里山」を冠する唯一のサクラは「阿里山山桜」で、これは塔山の遊歩道でしか見られない。
張副教授によると、「阿里山山桜」とヤマザクラ、白い「霧社山桜」もまた台湾でしか見られない固有種で、結実しない観賞用のサクラと異なり、台湾の原生種は実を結び鳥の食料になるため、生態系維持のために保護が必要である。
阿里山、合歓山、玉山など海抜の高いエリアでよく見る「矮菊」(キクタビラコ)。