自然との融合
2016年10月、南投県から台中に移ったHeroレストランは、蕭淳元に加え、高雄餐旅大学の同級生だった林凱維が厨房に立つこととなった。大学で中華料理を専攻した二人だが、学生時代からフュージョン料理を目指すことを決めていた。蕭淳元は宜蘭の渡小月や台北のラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション、日本のブルガリ イル・リストランテなどで修業を積んだ。林凱維は卒業後にフランスのポール・ボキューズの料理学校で学び、台中のレストラン中山招待所でシェフを務めていた頃から注目されていた。「中山招待所では高級食材を用いることが大切で、地元の食材は強調していませんでしたが、中華の味を意識した料理もありました」と話す林凱維は「今の方が完全体です」と言う。
季節のメニューの中で阿仙のお気に入りは、雲林産ホワイトアスパラガスと天然カラスミのユリ根ピュレ添えだ。これは中華料理の、ユリ根とアスパラとエビの炒め物をコンセプトとしている。伝統の中華では各種食材の風味を合わせて一体化させるのとは異なり、西洋料理の手法で食材を別々に調理する。エビは軽くあぶり、ホワイトアスパラは茹でてからバターソテー、グリーンアスパラは塩茹でしてピュレにする。それぞれの食材の味を尊重し、異なる食感で供する。
Heroレストランは南投県に専属の菜園を持ち、従業員全員が農作業と収穫に参加する。阿仙は蕭淳元が尊敬する二人の海外のシェフを紹介する。フランスの3つ星シェフ、ミシェル・ブラスと日本の谷口英司だ。日本の富山でレストランL'evoのシェフを務める谷口英司が打ち出す「前衛的地方料理」という言葉はHeroレストランが目指す方向なのである。谷口はフレンチを基礎として富山の食材を用い、また地元の工芸家と協力するなどして地域の特色を打ち出している。
移転したHeroレストランは経験やリソースの充実を経て蕭淳元の理想に向って邁進している。この日のデザート「英雄豊仁氷」には、地元台湾中部の威石東ワイナリーから提供されたワイン用のブドウが添えられていた。器も南投県の陶芸家・林永勝の作品だ。Heroレストランは地元の良い物との結びつきを深めている。
メインの料理の方はどうだろう。移転から2週間目に訪れた阿仙は、「以前に比べると、一段向上しました」と言う。特に最後に出される「清水鹹湿米百六猪三宝滷肉飯」を挙げ、以前はパスタやリゾットを主食としていたが、今は魚や肉の料理を強調し、ご飯ものを最後に出すという形で、日本のスタイルに近いと言う。