昔の写真を見ると、台湾の都市のかつての姿が鮮やかに蘇り、また文化の記憶を呼び覚ます。

1871年のこと、イギリスはエジンバラ出身の写真家ジョン･トムソン（1837-1921）は、英国長老教会が最初に台湾に派遣した宣教師ジェームス･マックスウェル師（1836-1921）のフォルモサ（ポルトガル語の台湾の美称）見聞を聞いて心惹かれ、台湾を訪れることにした。

2015年、駁二特区で開かれた「大港開唱」座談会。（鄭乃華撮影）

最初に世界に台湾を紹介

そこでジョン･トムソンは台湾を世界に紹介する貴重な写真を残すことになったのだが、これらの写真が写したのは今日の高雄と台南だった。

ジョン･トムソンは前後3回台湾を訪れたが、まず打狗港（現在の高雄哈瑪星付近）に上陸して最初の写真を残した。そこから北に安平府城（現在の台南安平）に向い、ゼーランディア城を記録した。またマックスウェル師の案内で山地深くに入り、台南県左鎮、高雄県木柵、甲仙埔、荖濃渓及び六亀（現在の内門、旗山、美濃、甲仙、六亀など）を訪れた。

山と谷が交差するこの道程は、140年余り前には大変険阻であったのだが、ジョン･トムソンが出会ったのは友好的な平埔族の先住民で、その撮影ノートに記録されているのは純朴で温かく誠実な姿で、南台湾の先住民（シラヤ族とマカタオ族）への称賛が綴られていた。

高雄MRTの美麗島駅ではバッハ音楽会が開かれた。（鄭乃華撮影）

打狗港から哈瑪星まで

哈瑪星は高雄の旧市街地区で、主に高雄市鼓山区の旧台湾鉄道以北の一帯である。休日ともなると人波で溢れ、大型バスの乗り入れは制限されているので、バナナ埠頭近辺の駐車場に駐車してから、歩いて旧市街に入らなければならない。

哈瑪星の名称は日本語の「浜線（はません）」から来ている。当時、ここは海沿いに鉄道が高雄港駅まで通り、地元住民は哈瑪星（台湾語）と呼びならわしていた。旗津に住む住民が町に出るには、南の小港区の海底トンネルを通るか、フェリーを使うしかない。朝方や夕暮れ時にフェリーに乗ると、日の出と日の入りを目にすることになり、高雄の人には必須の体験だが、旅行者にとってはロマンチックな光景である。

哈瑪星の旧台湾鉄道以南の地域は、現在では高雄市文化局が高雄港鉄道文化園区として開発し、南は高雄港埠頭と駁二芸術特区に隣接して、休日は観光客で賑わう。高雄港駅は高雄MRTオレンジ線の西の終点駅である西子湾駅出口に位置し、交通は便利である。

高雄県哈瑪星の周辺には観光スポットが多い。有名な西子湾の落日に、哨船頭山の麓には旧イギリス領事館文化園区があり、丘の上にある打狗イギリス領事官邸と麓の埠頭にある打狗イギリス領事館（旧水産試験所）が見所である。登山街の武徳殿は日本建築のスタイルを残していて、いずれも観光客が集まるスポットとなっている。

哈瑪星高雄鉄道パークは高雄初の列車の駅だった高雄港駅の跡地に作られた。

文化への関心と塩埕旧市街の復活

海は百川を入れる大きさがあるが、都市の偉大さもその包容力にある。包容力により都市は共通の歴史的記憶を紡ぎ出し、港湾都市･高雄の文化の基礎を作り上げる。

移民が高雄の都市の性格を決めた。高雄への移民は哈瑪星と塩埕一帯から始まった。

塩埕区は哈瑪星に次いで高雄で最も早くに開発された地域で、崛江周辺は碁盤の目のように旧市街が交差している。老舗の喫茶店を見つけ、古くからの老舗のご主人たちに高雄と港湾の歴史盛衰を尋ねてみた。船の解体業や既製服などの経営者は古い業種から新しい業種への移り変りを話してくれたが、これが現在の文化園区に恰好の題材を提供している。

五福四路にある参捌旅居の前身は1959年創設の正美礼服公司で、現在は三代目の邱承漢が経営している。彼は3年前に台北から高雄に戻り、母方の祖母の店を大幅に改造した。文化的要素を設計に取り入れ、かつて最も賑わっていた塩埕の大通りの目立たない外観の店は、センスある若い世代に人気となった。

ある日、参捌旅居の二階で邱承漢はもう一人の高雄出身者謝一麟と新しい年度の計画を練っていた。謝一麟は哈瑪星打狗文史再興会社の顧問で、三余書店の責任者の一人である。

三余書店は高雄を東西に貫く幹線の中正路に位置する。地下にはMRTオレンジ線が走り、地表には高層ビルが立ち並ぶ。三余書店はその狭間、ビルの傍らの古い家屋に目立たなく身をひそめているが、周囲と奇妙なバランスを維持している。それは書店の持つ柔らかい雰囲気が、温かく周囲を包むからであろう。

設立2年足らずだが、三余書店は高雄の独立系書店としてのソフトパワーで、知名度の高い空間となっている。書店として、読者に快適な本を選び、講演を聞く場を提供する。

古い倉庫の並ぶ駁二地区が芸術文化とクリエイティブ産業の基地に生まれ変わった。

古い倉庫が芸術文化特区に

1970年代生まれの七二設計工作室の責任者･洪旻宏は南投県の出身だが、高雄に進学して卒業後も高雄に残った。漢神エリアに近い新田路の裏通りに、築40年の古い住宅を事務所として使っている。夜には翌日の顧客向けプレゼン資料と格闘する彼だが、高雄のデザイン･ウィークなどのイベントに何回も参加した経験を有し、高雄に熱い思いを抱いている。そこで今年は塩埕区に二番目のオフィスを借りることにした。

大勇路突き当りの駁二芸術特区は、塩埕区の埠頭のそばにあり、意識の高い若者に人気の場所である。高雄港第三ドック内にある駁二とは、第二号接続埠頭のことで、1973年の建造になる港湾倉庫であった。2000年になって、国慶節の花火大会の開催を機にこの場所の利用価値が認められたが、長年放置されていたため、進出企業や団体は古い建物の状態を確認しながら空間の改造を始め、2002年に完成した。当初、駁二は大勇路の大勇倉庫エリアに限られていたが、続いて大義倉庫や蓬莱倉庫エリアも加わり、芸術のためのプラットフォーム及び文化クリエイティブ基地としての機能が次第に整っていった。

前世紀には愛河の整備と浄化により高雄全体の雰囲気が変わった。今世紀は進む都市交通の整備が、高雄の都市としての進歩の象徴となっている。不断に変化を続けるこの港湾都市高雄は、古い街の物語の中から自身の未来を引き出しているのである。歴史を基礎に発展を続けるというのが、この南台湾最大の都市の不思議な生命力なのであろう。

愛河の水質浄化と整備によって高雄の観光に大きな扉が開かれた。

かつて工業都市だった高雄が芸術文化によってイメージを変えつつある。

高雄市の文化局が運営する駁二芸術特区では、デザインフェスティバルやさまざまな展覧会が開催される。

古い家屋をリノベーションした三余書店。（鄭乃華撮影）

旗津フェリーは住民の足であるとともに、観光客が港湾の景観を楽しむ手段でもある。