中国初の武侠小説は司馬遷の『史記』の「刺客列伝」だとも言われる。『史記』の中で太史公(司馬遷)は、社会・政治問題を非常手段で解決する刺客を称賛し、「意を立てるは較然として(明らかで)、その志を欺かず、名は後世に垂れ、あに妄ならんや」と記した。
聶隠娘の物語は晩唐の裴鉶の『伝奇』を原作とするが、映画のストーリーは大幅に変更されている。私見だが、これは女刺客の物語と言うより、一人の女性が定められた運命からいかにして抜け出し、自分の道を見出すかを描いたものだととらえられるのではないだろうか。凄腕の刺客が、後にごく平凡な男の妻となるのである。前半の刺客としての隠娘は、同類のない孤独の身であり、「隠」は抗しがたい運命を意味する。そして放浪する夫についていく後半の隠娘は日常の普通の女となる。その時、「隠」は俗世の複雑な利害を離れて穏やかに暮らすことを意味する。
この映画の創作者に敬意を表して、今月号では皆様に『黒衣の刺客』を知っていただくために多くの誌面を割いた。侯孝賢監督へのインタビュー記事の他に、美術監督を担当した黄文英に関する記事を特にお勧めしたいと思う。
世間では『黒衣の刺客』に関する報道が溢れているが、そうした中でも、この記事は特筆に値する。ひとつの映画の成功の陰で、監督や役者だけではなく、スタッフがいかに心を尽くして努力してきたかが詳細に描かれていて、多くの人の励みになると確信している。
8月の台風の季節は終わった。9月は伝統の三大節句の一つ「中秋節」を迎える。今年の中秋節は3連休だ。大いに楽しもうではないか。