父権主義を守るための伝統
多くの既婚女性は「正月2日に嫁の実家に帰る」という風習に不満を抱いているが、これには長い歴史がある。
民俗作家の劉環月によると、春節にまつわるさまざまな風習は、早くも古代の周の時代から形成され始めたという。昔の漢民族社会では、嫁いだ女性は夫の家に属するとされ、嫁は大晦日から元日にかけて夫の家で料理や祖先へのお供えの準備などを担当してきた。そして正月の2日になって夫の実家での行事がひと段落すると、嫁はようやく自分の実家へ「客」として訪ねることができたのである。妻が自分の実家へ行く時は、自分が夫の家で大切にされていることを示すために「伴手」や「等路」などと呼ばれる手土産を持参するのが習わしだ。
「これは立場の変化を確認するための風習です」と劉環月は言う。多くの人に自発的に制約を守らせるために、伝統の風習は直接何かを禁ずるのではなく、多くのタブーを設けている。例えば「大晦日や元日に嫁が自分の実家に帰ると実家は貧しくなる」といった言い伝えまであり、既婚女性は恐ろしくてうかつにタブーを破れないのである。
では、現代社会においてこの風習を変えることは可能だろうか。高雄師範大学ジェンダー研究所の蔡麗玲・准教授は「まるで『呪い』のような脅迫です」とこうした風習を厳しく批判し、その友人の経験を例に挙げる。友人の夫の実家は大家族だが、逆に彼女の実家は家族が少ないため、彼女は両親に寂しい思いをさせたくないと思い、ある年、夫の理解を得て一緒に妻方の実家で大晦日を過ごすことにした。ところが、大晦日の数日前になって、彼女の母親が電話をよこし「大晦日には帰ってくるな」と言ってきたのである。母親は近所の人から「嫁に行った娘が大晦日に帰ってきたら、悪運を持ってくる」と言われたというのである。
「時代はどんどん変わっていくのですから、伝統における父権主義も少しずつ打破していかなければなりません。一人っ子がますます増える時代、『嫁は正月2日にしか実家に帰れない』などという風習は守る意味がありません」と言う。
春節は、嫁と姑の対立や緊張が高まる時期でもある。両者はもともと「職工頭と職工」のような関係に置かれているからだ。蔡麗玲・准教授によると、姑も嫁も実は夫の家では余所者と位置づけられていて、二人とも弱い立場に置かれていると指摘する。
「しかし、弱者はしばしば互いに資源を奪い合い、さらには強者に属する文化とその価値の実現に努力します。それによって自分の立場が認められていることを証明しようとするのです」と蔡麗玲は分析する。息子が嫁を取ると、姑はその家の決まり事と価値を懸命に嫁に叩き込もうとする。それは姑自身も歩んできた道だからだ。
だが皮肉なことに「職工頭」も「職工」も、どんなに努力しても儀式においては脇役でしかない。春節に祖先を供養するのも、大晦日の食事の始まりを告げるのも常に男性であり、姑や嫁は背後に身を隠してサービスを提供するだけなのである。
「残念なことに、伝統に押しつぶされて身動きさえできない女性たちの多くが、今もこのような不合理を当然のことと見なし、女性を不平等に扱う風習を次の世代へ、また次の世代へと伝え続けているのです。それが抜け出すことのできない悪循環となっています」と蔡麗玲は指摘する。
創意ある解決方法を
既婚女性たちは、長い歴史を持つ春節の決まりごとに縛りつけられていて、それを突破することは非常に難しい。しかし、時代の変化によって世の中の雰囲気も変り、わずかながら変化の兆しも見え始めている。
台湾婦女全国聯合会の林理俐理事長によると、最近の比較的若い姑や舅たちの多くは高等教育を受けており、新しい観念を受け入れることに抵抗がないという。「現代の女性は、初めから自分を伝統の風習や嫁姑関係の枠にはめる必要はありません。双方が心を開いてコミュニケーションをとれば、互いに納得できる解決の道が見つかるはずです」と言う。
暁晶(仮名)の経験は良い例だ。舅は早くに亡くなり、姑と同居してきた彼女は、春節が来るたびに姑と一緒に大掃除をして「兵営の全員が食べられるぐらい」の正月料理を用意してきた。そのため、二人ともいつも元日には疲れ切ってしまい、救急病院に駆け込んだこともあるほどだった。
そこで7年ほど前、暁晶は春節の過ごし方を変えようと決意して、姑にこう提案した。「おかあさんは一年間働き詰めで疲れていらっしゃるんだから、大晦日には、おかあさんの大好きな日本料理を食べに行きませんか。私たちに御馳走させてください」と。こうして姑を立てつつ説得し、以来、夫の実家の大晦日はレストランで過ごすこととなった。
また暁晶は、姑が大勢で賑やかに過ごすのが好きで、外に遊びに行くのも好きだが、お金は使いたがらないのも知っていた。そこで旧正月が近付くと、暁晶は信用のある旅行会社のツアーを選んで姑にプレゼントすることにした。こうして姑は、元旦からおめかしして友人たちと各地を旅するようになり、暁晶は夫と子供を連れて自分の実家へ帰り、残りの時間は自分たちも自由に旅行が楽しめるようになったのである。
結婚して3年の林さんは、少し違う一家団欒の形を選択した。夫は一人息子であるため、春節の大晦日に舅姑と一緒に過ごすのは当然のことだ。しかし、彼女は二人姉妹なので、自分が嫁いでしまった後、実家の大晦日は寂しいものとなってしまった。そこで彼女は、舅姑に、自分の実家の両親も呼んで一緒に大晦日を過ごすのはどうかと提案してみた。すると、思いがけないことに舅姑は快く同意してくれたのである。
以来、夫の両親と自分の両親、そして妹が皆林さんの家に集まって大晦日を過ごすようになった。正月2日に林さんが自分の実家に帰る時には、舅と姑も一緒に彼女の実家を訪ねて楽しむ。夫の実家と自分の実家の間で、どちらへ帰るべきか、などと悩む必要がなくなったのである。
家庭によって事情はさまざまだが、柔軟に考え、相手の立場に立ってコミュニケーションをとることこそ、現代の女性たちが伝統の決まりを打破し、春節を楽しむための最良の方法なのかも知れない。