アメリカの作家でシェフのアンソニー‧ボーディンや、イギリスの女優ジョアンナ‧ラムレイの旅番組を見ると、世界各地を旅する彼らは、新しい土地を訪れるたびに地元の市場に足を運ぶ。市場を歩き、匂いをかぎ、手で触れ、言葉を交わすことで、その土地を感じるのである。
市場はその土地の生活博物館とも言える存在だ。庶民の生活を知る入口であり、そこに歴史を見ることもできる。例えば台湾の迪化街は埠頭が設けられたことで発展し、各地の物産や茶葉、漢方薬材や布地の集散地となった。また台湾で最大の内湖花市では台湾の四季に触れることができる。
都市部の市場は人々の憩いの場でもある。台北市天母の「士東市場」は伝統の市場の人情味と快適な機能を併せ持ち、デザイン性に富んだファッショナブルな空間となっている。また、1999年の台湾大地震で被災した地域の農業復興のために生まれたファーマーズマーケット「台北希望広場」では、生産者と消費者が直接触れ合い、言葉を交わしながら買い物ができる。産地から直接運ばれてきた食材は安全で新鮮だ。
四方を海に囲まれた台湾の食卓にはシーフードも欠かせない。漁師たちが海に出て苦労して捕ってきたばかりの新鮮な魚介類には、魚市場で出会うことができる。
市は集落に立ち、その空間は自在で思うままに広がっていく。だが、そこには行き交う人々の笑い声や、やり取りの声が響き、人と人とが交わる光景がある。
今月号では、皆様と一緒に市場を訪れ、人ごみの中を歩いて、その土地の人情に触れてみたい。お店の人がネギやトウガラシをおまけにくれたり、両手いっぱいの食べ物をサービスしてくれても驚いてはいけない。これこそが台湾の市場なのだから。