黒白赤で都会をキャンバスに
もう一人の人気キャラクター当肯(Duncan)は、スイカ頭に黒縁メガネをかけ、鼻の横には深い法令線が刻まれ、常に黒白赤の三色を身につけている。これは作者の特徴を表現したキャラクターだ。この30代のイラストレーターが、ネットの人気投票でトップに選ばれたDuncanである。彼は美術学科の出身ではない。小学生の時に叔母がやっていた絵画教室で2年間スケッチを学んだことがあるだけだ。
幼いころから絵を描くのが好きだったDuncanは、画家や、ピクサー・アニメーション・スタジオにあこがれていた。だが父親は、画家では食べていけないと心配し、美術で有名な復興美工へは進学させなかった。大学に進学する時はデザイン学科に入ろうと思ったが、作品がなかったので受けられず、外国語学部に入ることになった。
兵役を終えるとDuncanはペンションの受付や屋台をやったりしたが、興味のない仕事をしているうちに、イラストで生計を立てていきたいという思いが高まっていった。「人生はとにかくやってみないと。やらなければ後悔します」と言う。そこで彼は実家のある花蓮を後にし、作品をもって台北へ出た。「給料は1万50000元でも2万元でも構いません。とにかく絵を学ぶ機会さえあればいいと思いました」と言うが、なかなかデザイン会社の仕事は見つからなかった。
十年ぶりにペンを執る
ついにチャンスがやってきた。コンピュータプログラミングの会社をやっている叔父が、デザインを担当しないかと声をかけてくれたのである。コンピュータグラフィックのことは全く分からないため少し迷ったが、叔父は学びながらやればいいと言ってくれた。そこで彼はCGの本を2冊買い、3ヶ月かけて学んでいった。
フェイスブックページのDuncanのファンの数は今では200万人を超える。だが、実はこのページを立ち上げるまで、彼はフェイスブックのこともよく知らず、ネットを使うことも少なかったという。ある日、フェイスブックで「白眼を剥け!温蒂妮小姐」を見て、「フェイスブックでこんなに面白いことをやっている人がいるのか!」と驚いた。これが刺激になり、彼は退社後にイラストを描くようになり、2013年6月にDuncan Designというファンページを開いたのである。
学校で美術を学べなかった空白を埋めるかのように、彼は毎日イラストを描いてアップしていった。最初は200~300人が「いいね!」を押すだけだったが、シェアの輪が広がっていくにつれてDuncanの人気は爆発的に高まり、ファンの数は今では240万人に達する。
こうして知名度が高まると、仕事が入るようになったが、彼は自分の創作エネルギーを蓄積して本来の仕事に専念するために、すぐには他の仕事は受けなかった。そして昨年2月、彼は職を辞して初めてイラストの仕事を受けた。テレビ局TVBSの母の日のイメージ広告である。
これに続いてDuncanはアディダスやケンタッキーフライドチキン、フォードなどの企業からも依頼を受けた。2014年7月からはASUSと共同でLINEのスタンプを作成したところ、月にのべ400万人がダウンロードするようになった。ここからもDuncanのイラストの魅力がうかがえる。
些細なところから得るインスピレーション
Duncanは日常の些細なことを面白くしたり、よく使う言葉の語尾を変化させるなどしてシリーズのイラストと組み合わせている。例えば、有名なジョニー・ウォーカー(中国語では約翰走路)シリーズを、約翰走秀(ジョニーがショーの舞台を歩く)、約翰走音(ジョニーの音痴)、約翰跑路(ジョニーの夜逃げ)などに変化させてイラストをつける。外国語学科出身の力を発揮して、中国語と英語の対照訳をつけるなど、他のイラストレーターにはない魅力を発揮している。
Duncanのイラストには必ず文字がついており、思わず声に出して読んでみたくなる。例えば、自分の出身地である花蓮の訛を使ったシリーズもある。普段は見過ごしてしまうような些細な物事を通してDuncanは創意を発揮し、多くの人の共感を得ているのである。
創作の道は決して平坦ではないが、楽観的なDuncanは、自分は多くの人に助けられてきて幸運だと感じている。ネット上で作品を批判されることもあるが、それも成長のエネルギーになる。現在の最大の課題は「いかに創作と商業性を融合させ、企業との共同作品をおもしろくするか」だと言う。Duncanにとっては、創作そのものの物語は商品より重要であり、広告のためではなく、自分が面白いと思う作品を作りたいと考えている。そのため、企業と話し合う時は、自分の方法で商品を見せることを主張する。「そのために報酬の高い仕事を断ったこともあります」と言う。
人々が寝静まった夜中に作業をするのが好きだと言うDuncanはマスコミに顔をさらすことはなく、取材を受ける時も、テレビに出演する時も仮面をつけている。昼間に散歩をしながら人々を観察する余地がほしいからだ。
着実なDuncanは遠大な夢を持つことはなく、2カ月単位の段階的な目標を定め、それを一つ一つクリアしている。将来は、今とは違う作品を試みて、Duncanを知らない人にも作品を見てほしいと考えている。「絵を描いている時が楽しければ、完成した時に充実感が得られます」と、イラストがもたらす喜びを語る。
人々と分かち合うのが好きで、日常の些細なことの観察に長けているというのが若いイラストレーターの特長のようだ。彼らは独自のスタイルと創意を生かし、現代人の平凡で息苦しい暮らしに笑いをもたらしてくれる。
イラストレーターでは食べていけないという時代は終わり、絵を描くのが好きな人にも新たな前途が開けた。新時代の若者たちは創意をもってエネルギーを爆発させている。