情熱があれば結果はついてくる
「淡水の物語を淡水住民が演じるというのは良いのですが、応募者がいなければ大変なことになります」と淡水区役所の黄月香は言う。区役所で国際環境芸術フェスティバルを担当する唯一の職員である彼女は、とにかく結果は考えずに情熱をもって突き進むしかなかったと言う。
黄月香は、かつて担当した高齢者活動の人脈を手繰り、各地区の里長に宣伝を頼み、高齢者の参加を呼び掛けていった。
だが、若者の応募がなく、それが王栄裕を悩ませた。そこで真夏の酷暑の中、黄月香は淡水の学校を巡り、校長と地域担当教師に頭を下げ、生徒たちの参加に協力してもらった。
こうして上演の3か月前、ついに200人の市民が集まった。会場を見渡すと、お年寄りや女性、子供が多く、女性の割合が男性より多かった。
寄せ集めの劇団だが、王栄裕は本格的な稽古にこだわり、まずメンバーを演劇組とカンフー組、舞踊組、打楽器組に分けた。毎週2回、夜間に各組3時間ずつ稽古し、全体のリハーサルも行った。その間、メンバーには地元の研究者から西仔反の歴史を学ぶことも求めた。
黄月香によると、王栄裕が定めた稽古のルールは、すでに淡水における「西仔反伝説」の作業標準書になっているそうだ。2009年以来、「西仔反伝説」は淡水国際環境芸術フェスティバルで6回にわたって上演されており、常に2000人近い観客が集まる。2012年には規模を拡大し、西仔反とマカイ医師、廖添丁、海賊・蔡牽、八庄大道公(保生大帝)の四つの物語を合わせた『五虎崗奇幻之旅』を上演した。
6年連続の上演で、「西仔反伝説」は他の地域が学ぶ手本となったが、これを越えるものは出てきていない。参加する市民が3ヶ月にわたって訓練を受けるという点だけでも、他の地域にはまねのできないことなのである。
だが、市民が演じることこそ成功の最大の要因だと王栄裕は語る。「彼らにとっては、これが人生で一度きりの舞台かもしれません。勇気を出して舞台に上がり、大きな声で話すだけで大成功なのです」と言う。
80代のおばあさんが6年連続出演
参加する市民にとっては、稽古で帰宅は夜10時になるが、得るものも大きい。
今年81歳の蒋呉静玉さんは、6年連続で出演している。最初の4年は清兵を演じ、2013年からはお年寄りを演じて、初めて台詞を言った。
「仏様が守ってくださる。逃げずにここにいよう」という台詞だ。フランス軍が来るから山へ逃げようという息子に、彼女は決意を語る。そして戦いに勝利した後、マカイ牧師とともに戦乱で失われた命のために祈りを捧げるのである。
蒋呉静玉さんは初めて耳に小さなマイクをかけ、1000人以上の観客の前で台詞を話したことを誇らしく感じたと言う。
淡江中学校史館の蘇文魁館長は、6年連続、髭をつけてマカイ医師を演じている。彼はマカイ医師を演じるに最もふさわしい背景を持つ。かつてマカイ医師の息子、ジョージ・ウィリアム・マカイ氏に従って一家でキリスト教徒になり、後にはマカイ牧師の研究に従事してきたのである。
『西仔反伝説』は淡水住民以外の人々の参加も歓迎している。淡水対岸の八里に住む9歳と5歳の姉弟、高思瑀・高承閎さんもこの2年、参加を申し込んで出演している。昨年は森の精と立ち回りを演じた。母親の陳麗瑀さんは淡水出身で、以前は知らなかった『西仔反』の歴史を子供たちとともに学び、子供たちもこれを通して知識欲を高めたという。弟は歴史の本をよく読むようになり、姉は何でも質問し、自分でも積極的に答えを探すようになった。
西仔反の戦役の物語を淡水住民が演ずることには特別な意義がある。今年10月には7年目の舞台があり、淡水の美しい夕日や遺跡、港、観音山とともに『西仔反伝説』も淡水の「美」の一つに数えられるようになった。その美は市民の情熱から生まれる。台詞や位置を間違えても、それが素朴な庶民の美なのである。10月には、ぜひ淡水を訪れ、住民自身が演じる「西仔反」の物語を鑑賞しようではないか。