養豚場の内部循環を確立
暑い盛りの8月、私たちは李志杰に率いられて彰化県芳苑にある隆盛畜牧場を訪れた。そこの林睿毅総経理は広大な敷地内にある廃水処理システムの最終段階である沈殿槽を見せてくれた。ここからは処理を経た廃水が放出されている。灰色がかった淡い緑色をした水はまったく臭さはなく、青い草の香りさえする。「廃水をここまで処理できたのを見ると、本当に心がいやされます」と林睿毅と李志杰は笑顔を浮かべる。
林睿毅に、なぜバイオガス発電に取り組むことにしたのかと問うと「負けたくないという気持ちからです」と言う。かつてほかの業種の営業職に従事していた彼は、家業として養豚業を継いだのではなく、養豚産業の将来性を見込んで転業したのである。そして養豚業は汚くて臭いというステレオタイプのイメージを払拭するために、企業経営者として、あらゆるプロセスに改良とイノベーションの機会を求めてきたのだという。
隆盛畜牧場は林睿毅が8年前に買い取った養豚場だ。多くの養豚場が生産効率を追求して豚舎をびっしりと建設するのに対し、隆盛は環境保全のための施設をしっかりと設けている。林睿毅は、この養豚場を買い取る時にその発展の可能性を感じ、売値より高く買ってもいいとさえ思ったそうだ。これまで半世紀近く運営されてきた養豚場は、彼の指揮の下で進化を続けることとなった。現在は、1万2000頭の豚を飼育しており、節水できる高床式の豚舎に変えるほか、バイオガス発電設備も設け、電力は養豚場の扇風機に使用している。豚舎の周囲には緑を多く植えることで気温を下げている。屋上には太陽光パネルが設置され、また二重の壁面で熱を遮断し、厚みのあるトタン屋根で温度を下げている。
廃棄物の削減と省エネが全面的に実施された養豚場で、林睿毅は将来のビジョンを語ってくれた。付近には耕されなくなった農地があるので、そこにトウモロコシを植えて処理した廃水を灌漑に用いる。収穫したトウモロコシは株全体を乾燥させて発酵飼料にする。こうすればカーボンフットプリントの高い輸入飼料も必要ない。飼料の利用率が90%になれば、排泄物の量も減らせ、飼料効率(一定量の飼料を摂取して、どれだけ体重が増えたかを示す値)も高くなるのである。
昔の人は発酵した残飯を豚に与え、それを食べた豚は病気になりにくく、おいしかったという。発酵した残飯には善玉菌が多いからで、昔の知恵を現代的な方法で活かすことも可能だ。
台湾の食において豚肉は重要な役割を果たしており、多くの家庭はかつて家計の足しにするために副業として豚を飼っていた。従来の産業は時代とともに進歩して変わり、畜産業も今では単に食物を提供するだけでなく、クリーンエネルギーを創造することもでき、ほかの産業と肩を並べて気候変動と戦うことができるようになった。隆盛の変化は、まさに現代の畜産業がこれから歩むべき道と言えるのだろう。
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巨大なソーセージのような赤い袋の中には、メタンガスが貯留されている。