保護センターを農場に
昨年末の有毒ドッグフードのような事件があると、担当者は容体のおかしい犬を病院に連れて行き、採血して台湾大学や屏東科技大学、淡水動物衛生検験所などに送って原因を分析する。また、不幸にも死んでしまった時には、サイトのリストから除籍して寄付金の引き落としを停止する。幸い、これまで培ってきた良好な信頼関係があるため、大部分の里親はこれらの情報を信用している。それどころか、昨今の不況で捨て犬が増えているため、野犬収容所で安楽死させられる運命にある野良犬を、保護センターで引き取って飼育してほしいと、将来のアドプトを「予約」する人までいるそうだ。
自らの性格を「闘魚」と形容し、挫折すればするほど奮い立つという黄慶栄さんは、8年前にこの無報酬の事務局長を引き受けて以来、保護動物協会の管理と運営のレベルアップに努めてきた。その結果、協会を起死回生に導いただけでなく、毎年400〜500万元の黒字を出すまでに育て上げた。そして今は「ソーシャル・エンタープライズ」の方向へと転換させようとしている。そうした中で、有毒ドッグフード事件という思いがけない打撃にも遭ったが、それでも楽観的に対処し、引き続き里親制度を推進しつつ、さらに大きな夢を描いている。それは、野犬保護センターを農場へとアップグレードすることだ。
「保護センターを農場に変えたら、犬たちがどんなに喜ぶことでしょう」と黄慶栄さんは言う。彼は苗栗県の獅潭に理想的な土地を見つけた。今の八里の保護センターは借地で、1600坪に500頭以上の犬を収容しているが、苗栗のこの土地は3.6ヘクタール(1万余坪)もある。そのうちの1ヘクタールに保護センターを設ければ、より多くの犬の命を救うことができる。天然の除臭作用がある林の中で、犬の排せつ物や汚水はエコロジカルな方法で浄化処理して有機肥料とし、野菜果物や経済的な価値の高いヒノキなどを育てれば、利益も出せる。
協会を永続的に発展させ、同時に「台湾の動物保護組織のレベルを上げて世界的なイメージを変える」ために、黄さんはさらに多角化経営を考えている。この農場を、レジャーも兼ねた「生命教育パーク」にしたいのである。
「生命教育パーク」では、野良犬たちは幸福な一生れ、死後は「樹木葬」によって尊厳をもって自然に帰ることができる。一般家庭の飼い犬も、有料で樹木葬を行えるようにする。夢はさらに広がる。犬の飼い主が出張や旅行などで家を空ける時には、犬をここで預かれば犬もバカンスを送ることができる。あるいは、飼い犬のしつけを行う「合宿」サービスを提供することもできるだろう。
現在、保護動物協会は、獅潭のこの土地にさまざまな樹木を植え始めており、何もなかった傾斜地は緑豊かな大地へと生まれ変わり、新たな住人を迎えようとしている。この夢を実現するために、大学院在学中の黄慶栄さんの息子も「動物保護センターの視覚空間設計」を論文のテーマに選んだ。おそらく2年後には八里の動物たちは、新しい幸福な家に移り住むことになるだろう。
人間関係が希薄で家族も少ない現代人にとって、ペットは孤独や疲れをいやしてくれる大切なパートナーだ。写真は初冬の休日、きちんと服を着た犬を連れて散歩をする人。
必ずしも自分で飼う必要はない。黄慶栄さんが発起した、里親が資金を出して保護センターで飼育する方法では、ネットを通して愛犬を選ぶことができる。
野良犬は捕獲すればするほど増え、民間の保護センターは犬であふれている。黄慶栄さんは50軒の獣医とともに優遇料金を設定して野良犬の避妊手術とマイクロチップ装着を進め、それらの犬を一般から募集した「愛心おかあさん」に飼ってもらっている。すでに1100頭が手術を受けた。写真は、台北市環境保護局の野犬捕獲隊が台北市大稲埕で任務を執行する様子。