命を救うための道を
35年を超える魚道研究の成果や経験を、惜しみなく人と分かち合う。中国青海省にも赴き、チベット人に魚道作りを教えた。そのおかげで毎年数億匹もの魚が遡上して産卵するようになり、青海湖の固有種であるコイの仲間の保護に貢献した。台湾でもエコツアーが行われるようになり、魚類保護、ひいては持続可能な魚類資源といった方向に歩み出していると彼は指摘する。
魚だけでなく、頭前渓ではモクズガニの生態にも注意を払う。魚道の側壁に溝を作ったり、麻縄を取り付けたりしてカニがそれをつたって堰を超えられるようにした。
2017年には「キープウォーキング夢支援プロジェクト」の援助を得て、地元のボランティアとともに屏東の満州でカニのための生態系コリドーを作った。毎年夏秋の産卵期になると、メスガニが産卵のために車道を渡るので、翌朝にはおびただしいカニが車にひかれてペシャンコになっていた。曽は学生を率い、設計、組立、観察、調査などを実施、そうしてカニのための安全な生態コリドーを作った。これによって彼は、ナショナル‧ジオグラフィック誌で「2017華人探検家」の3人のうちの1人に選ばれている。
2018年には墾丁国立公園管理処の委託を受け、墾丁の省道26号線に陸ガニのための生態コリドーを設計した。まず路肩にシート張り巡らせてカニが路面を渡れないようにし、同時に地下水路に縄を取り付け、カニがそれをつたえるようにした。成果は上々だったが、2019年には不可抗力の諸事情から中止されてしまう。曽晴賢は嘆きながらも「試みが成功しなくても、そこから何か得るものはあります。あきらめてはいけません」と言う。40数年にわたる河川生態調査で、多くの魚類に生態系コリドーが必要なことを彼は熟知している。「必要があるから努力してやる。努力して成功させる。それが問題解決の道です」
魚を見ていると感心すると彼は言う。小学校の教科書にも、故蒋介石総統が幼い頃、川を遡上する魚を見て自らを鼓舞した話が出てくる。「総統の故郷の浙江省に行った際、地元の魚類学者に聞いたら、本当に魚が遡上していたと言っていました。ただ環境汚染で今は見られないそうです」
曽晴賢は魚の姿に不屈の精神を見る。ならば我々は曽の姿に、大自然への愛や学問への尽きることのない情熱を見るだろう。
生態系コリドーの構築によって魚は川をさかのぼることができ、それによって河川はいつまでも生物多様性を維持することができる。(曾晴賢提供)
曾晴賢はチベット人にも魚道の設計を教え、それにより何億という数の魚が産卵のために遡上できるようになった。(曾晴賢提供)
曾晴賢は生涯をかけて魚が故郷へ返るための魚道を築いていく。