『光華』取材班は「WEP女性起業飛雁計画」のメンバーを訪問し、女性起業家の課題と、この計画から得たものをうかがった。

仕事と生活のバランス

雲守護（Beseye Cloud Security）でAnjerと呼ばれる郭芳辰は、同社の草創期に仲間に加わった。同社CEOの涂正翰にとっては「苦労をいとわず、勇敢にチャレンジする」起業パートナーである。雲守護の設立当初は、メンバー全員が技術者で、会社が少し安定し始めてから涂正翰は財務を専攻する管理職を探すことにした。そうした中、スタートアップ、ビジネスホテル、デパートなど豊富な経歴を持つAnjerが目に留まった。「彼女は専門能力を持つだけでなく、国際組織ガールズ‧イン‧テックの下部組織であるガールズ‧イン‧ベンチャーを共同で創設した経験もあり、たいしたものだと思いました」

Anjerは会社のためにスタートアップのリソースを探していた時にWEPを知り、申し込むことにした。その年の学習を振り返り、最大の収穫は「仕事と生活のバランスを見出せたこと」だと語る。それまでワーカホリックだった彼女は、休日返上で働いていたが、WEPプログラムに参加して仲間とシェアする中で、多くの女性が家庭と仕事を両立させていることに気付いた。彼女自身はまだ未婚だが、いかに時間を有効に使うかを学ぶことができたという。「以前は1分1秒でも無駄にすると罪悪感を抱いていましたが、今はスローダウンできるようになりました」

Anjerの指導を担当した運籌網通（Toplogis）CEOの彭麗蓁には「良い管理職になるには、色彩豊かな人生を送ること」と言われたそうだ。この先生に教えてもらったのはビジネスではなく「頭の中に留めてある計画」を実践することだった。これによって、今は車で高速道路を走って別の町へ行けるようになった。次の目標はマーケットに屋台を出すことだ。こうしたチャレンジの中で、思考を切り換えることを知り、仕事に必要な創意も湧いてくるようになったと言う。

Anjerはオフィス環境を美化することで、ポジティブで暖かい雰囲気を生み出している。

個人と企業の突破

WEPでは毎回Demo Dayを催す。会場には内外からベンチャーキャピタルを招き、メンバーは英語でプレゼンテーションをする。壇上で話をするのが苦手だったAnjerだが、この機会を通して自分にチャレンジすることを学んだ。訓練の過程で、涂正翰はプレゼンの技巧を教えるだけでなく、街頭で道行く人に向って練習させた。「最初は人の目が怖かったですが、少しずつ自分の話の内容に集中できるようになりました。おかげでDemo Dayの壇上では、プレゼンの内容もしっかり頭に入っていて、自然に話ができました」とAnjerはこの特別な訓練について語る。

Demo Dayが終わって数日後、彼女は当日来ていたベンチャーキャピタル数社から電話を受けた。雲守護と協力関係を持ちたいというオファーで、これは本当にうれしかったという。「自分にも人を説得できるという自信が持てました」

WEPは懸け橋の役割も持ち、雲守護に提携の機会をもたらした。日本にも顧客を持つ雲守護だが、まだ台湾の製鉄会社との交渉の機会を得たことがなかった。そうした中、WEPを通して台湾最大の製鉄会社である中鋼公司とその傘下の警備会社‧中鋼保全と面談できることとなった。

WEPに参加して一年、Anjerは多くの女性起業家に参加してほしいと思っている。このグループに加わることで、同じ理念を持ち、チャレンジと問題解決が好きな人に出会えるからだ。メンバーと交流するたびに共鳴が得られる。「リラックスでき、知識も得られる場です」と言う。女性起業家たちは、仕事は罪であるというレッテルを破り捨て、胸の中に思いがあるのなら勇敢にそれを実践すべきだと言う。神は問題を解決させるためにあなたを送ってきたのだから、と。

WEPアクセラレーターのDemo Dayで雲守護の製品とサービスをプレゼンテーションするAnjer。

人助けが起業に

普段は実験用の白衣を着ている傅暁慧は、取材の日にはスカートにハイヒールという姿で現れた。会社を設立した当初、彼女は常に研究者と営業職という二つの役割を切り換え続けていた。しかし、実は起業は彼女のライフプランにはなかったという。身近な人が次々とがんで亡くなるのを目の当たりにし、大学院でがんの研究を始めた。後に、指導教授·楊孝徳に勧められ、ポストドクターの期間から臨床研究を始め、その後「免疫測定と組織修復システムの抗がん能力」という技術で十数項目の特許を取得する。

「私が会社を始めると言うと教授は驚きました。研究ばかりしていたので、ビジネスは分からないだろう、と」だが、迷いはなかった。起業を決めると、すぐに起業をサポートするリソースを探し始めた。清華大学起業コースや、政府科技部のRAISE計画、そして女性起業家アカデミーもあった。「台湾には起業をサポートするリソースがたくさんあるので、やる気さえあれば思い切り活かすことができます」と言う。

会社の創業当初、傅暁慧は毎日営業と認証申請に忙しかった。この時期、彼女は管理面でのコミュニケーションの問題から大きなストレスを感じていた。「その頃は、すぐに涙が出ました。仲間と話をしている間に涙がこぼれてくるのです」と言う。実験室の研究者から、ビジネスシーンでの経営者の役割へと変わるのは非常に大きなチャレンジだ。しかし楽天的な彼女は、これらをすべてゲームの関門ととらえた。「今は関門で行き詰まる時間も短くなりました。目が覚めた瞬間に解決方法を思いつくこともあります」

問題を解決することが好きで、積極的にさまざまな方法を試みるAnjer（前列中央）は、雲守護創設者の注意を引き、スタートアップに加わるよう招かれた。

起業が人を自立させる

傅暁慧が申し込んだ「女性起業家アカデミー（AWE）」というのはアメリカの国務省教育文化局が2019年に打ち出したもので、2021年に米国在台協会（AIT）が台湾に導入した。これに参加を申し込んだのは、バイオ産業には国際市場が必要だからだ。そこでビジネス英語を習得しなければならないと考えていた彼女には、オンラインでの英語による授業が魅力的だった。

その後、傅暁慧はすべての課程を修了し、さらに英語によるプレゼンテーションコンクールにも参加した。英語でビジネスプランを書き、カメラの前でライブ配信を見る観客に向って会社の理念やサービスを紹介し、入選した。「この経験で、話すことに自信が持てました」と言う。

外国語能力の向上だけではない。傅暁慧はメンターからビジネス思考の重要性も学んだ。それまで彼女は診療所や病院を通して消費者に自社の技術を薦めてもらうことばかり考えていたが、「互いの利益になる」ことこそ提携のカギとなることを知ったと言う。相手の立場で考えるようになり、医療機関と交渉する時には、会社の専門技術に先方の健康診断プランを組み合わせて協力する方向に持っていくようにした。

バイオテック業界で十年以上の経験を積んできた傅暁慧は、この分野で活躍する女性の割合は低いと感じている。彼女自身、学術研究においても起業のための資金集めにしても、性別のために差別されてきたと感じる。ただ、起業後は考え方も手段も大きく変わり、指導教授からも「起業してから、急に成長しましたね」と言われたそうだ。起業したことで、彼女は少しずつ人助けの使命を成し遂げられるようになり、自分自身の光る部分も見出せたのである。

地方の魂を見出す

取材をしたのは端午節の前で「粨種人」のメンバーは伝統の阿粨（アバイ。原住民族のチマキ。粟と肉をオオセンナリの葉で包んだもの）作りに忙しい時期だった。今年は新しく中国の冷凍物流会社からも75箱、8000個の注文も受けた。粨種人は小豆を使ったアバイも作る。この大量受注に対応するために、王禛壹はハラール認証と契約の細部を研究した。「本来のアバイは肉が入っているので規定に合いません。後に夫からは植物由来の代替肉を使ったらどうかと言われ、代替肉で鶏肉と豚の角煮の味わいを出しました」と言う。日頃から、夫の徐哲煌はアイディアを出し、彼女がチームを率いて実行している。

4年前に台東へ帰った王禛壹と夫は、両親が高齢になったと感じ、アバイの手作りの仕事を引き継ぐことにした。積極的な二人は、アバイを「観光地の名産」という位置づけに終わらせたくないと思い、積極的に他県に機会を求めることにした。「帰省した当初の3年間は、実際にはほとんど台北で売っていました。オフィスビルにブースを出したり、食品フェアで紹介したり、アバイの特色と長所は1万回以上話したと思います」と王禛壹は言う。その甲斐あって、今では注文が入るようになり、食品フェアなどでは内外の大型スーパーからもオファーが来るようになった。

ソーシャルワーカーの経験がある彼女は、原住民集落の女性は自分のことより家庭を重視することを知っていた。そこで集落の女性たちに粨種人で働くよう誘った。収入が得られるだけでなく、生活圏も広がるからだ。こうして働くようになった女性たちを彼女は「チャーリーズ‧エンジェル」と呼ぶ。果敢にチャレンジする頼りになる女性たちである。「私と夫が作業に疲れて眠ってしまった時、朝に目が覚めると彼女たちは注文をすべて完成させていたのです」と言う。

傅暁慧は起業を通してがん予防という人助けを実践している。

集落の女性の新生活

粨種人は設立5年、チャーリーズ‧エンジェルのメンバーは一定ではなく、家庭のために休むこともある。「毎日退社時には、明日は来る？と彼女たちに聞くんです」と言って笑う。会社の理念は、地域の生活スタイルを尊重するというもので、大きな自由を与えている。

だが、ここで働く母親たちの金銭観が変わってきたことに王禛壹は気付いた。ここで労力と引き換えに得た収入で、ほしい物を買い、家庭にも貢献し、生活の質を高めているのである。「以前は、働いている女性のご主人が会社に来て『なぜ女性をここに連れてくるんだ。彼女たちは家で子供の世話をするべきなのに』と大声で叫ぶこともありました。ですが、最初のお給料をもらうと、涙を流して妻が働くことに感謝してくれました」

粨種人は旅行会社とも提携してアバイ作りをツアーに取り入れている。そこでチャーリーズ‧エンジェルたちもガイドになり、アバイの包み方や集落の文化を紹介する。時には大学に招かれて教えることもある。「以前、彼女たちは家にいて時間の過ぎるのが遅いと感じていましたが、今は毎日充実しています」と言う。

集落にポジティブな影響を与えている粨種人は、対外援助を行なう国際合作発展基金会の注意を引き、中米の先住民集落を訪れて経験をシェアしたこともある。

起業を通して、王禛壹は自分の冒険精神に気付き、また女性の権益を高める決意を強めた。今年彼女は東華大学のエスニック関係及び文化科の博士課程に合格し、論文を通して雇用市場における原住民女性の価値を知らせたいと考えている。

彼女は今、仕事と家庭の両立を学んでいるところだ。食事時間に顧客と商談するのをやめ、また会社の規模もほどほどが良いことを知った。「ほどほどだからこそ良さがわかる、と娘が教えてくれました。お金儲けもほどほどに、集落にもほどほどの変化をもたらせればいいのです。売上のために家庭や健康を犠牲にしてしまったら、元も子もありませんから」と言う。

傅暁慧（中央）は女性起業家アカデミーにおいて、公の場でのプレゼンテーションにチャレンジし、多くのビジネス思考を学んだ。（AWE女性起業家アカデミー提供）

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粨種人の「チャーリーズ‧エンジェル」たちがオオセンナリの葉を収穫する様子。（粨発粨粽阿粨専門店提供）

粨種人のチャーリーズ‧エンジェルが子供たちにアバイの包み方を教える様子。（粨発粨粽阿粨専門店提供）

粨種人は集落の女性たちに、家から出て広い世界を持つよう奨励している。（粨発粨粽阿粨専門店提供）