洪水シミュレーション
「私たちは4つの時点における3つの状況をシミュレーションしました」と游進裕は説明する。第一の時間点は2004年の計画時、後は2013年、2019年、2032年だ。現在の地盤沈下の速度と気候変動などの要因を考慮し、3つの状況を想定した。現状のまま何も手を打たない状態、従来の治水整備を続けた状態、そして自然と共生する新方法を実施した状態で、それぞれに水害の状況が示される(シミュレーション画像を参照)。基金会は演算によって水没する地域をはじき出した。2004年の計画時の浸水面積は4500ヘクタールだが、従来の治水整備を続けた場合、2032年には1万2000ヘクタールが浸水する。
これらのシミュレーションとGoogleの航空写真を重ねて示すと、住民たちはすぐに状況を理解した。自分の田畑や養殖池や住居の「運命」を目の当たりにした住民との話し合いは難しくはなかった。1年余りの討論を経て、住民は全員、基本的に「自然と共生」する治水方式に賛同した。
東石モデル地区の再区画整備には、盛り土をしての市街地整備、公共施設建設、水害防止、産業調整、水環境回復などを含めて4〜5年の時間と33億元がかかる見込みである。嘉義県の沿海地域全体250平方キロでこれを実施すると、費用は160億元となる。
嘉義沿海モデル地区計画の主宰者である台湾大学土木学科の李鴻源教授によると、嘉義沿海の養殖産業の年間生産高は40億元だが、近年政府がこの地域の治水のために投じてきた資金は250億に達する。それに対して、160億をかけて地盤沈下と水害の問題を根本から解決すれば、生活の質や土地の価値も上昇し、新しい産業も興せるのだから、どちらが有利かは明らかであろう。
『荘子』にこんな物語が出てくる。麗姫は晋献公に嫁ぐ時、故郷を離れるのが悲しくて衣が濡れるほど涙を流した。しかし晋国でしばらく過ごした後、そこでの生活が故郷でのそれよりずっと良いことに気付き、嫁ぐ時にあんなに悲しんだことがおかしく感じられた、というのである。
同じように、度重なる水害に苦しんでいる台湾西南沿海の低海抜地域の住民にとって、政府が安全で生活機能の整った土地を提供するというのは喜ばしいことではないだろうか。