物資が心を結ぶ
10時までに、心身障害者が働く市民大道沿いの陽光ガソリンスタンドへ届けなければならないのだ。10時に退社する従業員はパンを持ち帰り、交代で出勤してくる従業員はパンで腹ごしらえする。
陽光基金会が経営するガソリンスタンドと洗車センターはすべて連其昌さんの担当だ。和平団の統計によると、今年の1~5月だけで1万人と2600世帯がパンの支給を受けている。寄付されたパンの金額は1500万元分に上り、それらを積み重ねると台北101の10倍の高さになるという。
陽光ガソリンスタンドで働く18歳の士傑さんは、毎週日曜の夜に「パンのおじさん」が来てくれるのを楽しみにしている。管理職によると、これらの子供たちは家庭にそれぞれ困難を抱えており、特にケアが必要だという。日曜日に勤務がない従業員のためにパンの一部は冷蔵庫に入れ、翌日レンジで温めて食べているそうだ。
この日、連其昌さんは2袋分のパンをガソリンスタンドに収め、それ以外は台北市汀州路にある健軍団体家庭に届け、さらに残りは家に持ち帰って冷蔵保存し、翌朝、陽光洗車センターへ届けた。
育成社会福祉基金会が運営する健軍団体家庭には知的障害者が20人余り暮らしており、その多くは低所得世帯の出身だ。彼らは昼間は障害者を雇用する社会福祉機構で働き、夜は団体家庭で自立を学ぶ。ここの陳雲玉主任によると、何人かは帰る家がなく、一年中ここで暮らしているという。
以前は近所のパン屋へ売れ残りをもらいに行っていたが、その店が閉店してしまい、昨年から連さんが毎週日曜日に届けてくれるようになった。
週に1回届けられるパンは、ソーシャルワーカーが冷蔵保存して調理して出す。食パンはポテトと卵のサンドイッチにすると大人気だ。
団体家庭の住民は、これらのパンが店の思いやりであることを知っていて、「不要になったもの」という考えはない。「資源のつながりが思いやりのつながりなのです」と陳雲玉主任は言う。
貧しい人ほどメンツを気にする
和平団フードバンクの命はボランティアだ。大部分が50~60代だが、涂永憲さんは1976年生まれだ。
彼はすでに8年もボランティアを続けており、今は台北市万華区の隊長で、台北市社会局が運営する福民平価住宅を担当している。7割は一人暮らしの高齢者、3割は一人親家庭、計100世帯の中低所得層である。台北市内で平均収入が最も低い万華区で、彼は支給を受ける人々の歪んだ現状を見てきた。
その話によると、児童手当や家庭補助、障害者手当などの支給を同時に受け、3000元の老人手当は額が少ないと見下す人もいる。高級車を乗り回す低所得者もいれば、子供全員がスマホをもっている生活困窮者もいる。涂永憲さんは、こうした福祉を乱用する人々にはパンを配送しないことにしている。
若い頃は喧嘩早くてヤクザの仲間に入っていたが、後に心を入れ替えてボランティアを始めた彼は、麻薬やアルコールに依存したり、喧嘩ばかりしている人にはパンを届けない。
彼は週に2回、ヤマザキの台湾大学病院支店と台北駅付近の優仕紳烘焙屋に行ってパンを引き取り、生活困窮者に配るのだが、パンの寄付を受け入れようとしない人もいる。
今年、低所得世帯認定すれすれの1組の姉妹と子供の世帯にパンを届け始めた。涂永憲も子供の頃に空腹に苦しんだ経験があるので、子供が心配で届け始めたのだ。ところが、パンを届けると姉妹は怒り、ドアを開けようとしなかった。パンをドアノブにかけておくと5階からパンが投げ捨てられた。
何回か拒絶された後、彼は黙ってパンを置いていくようにし、少しずつ思いやりのパンを受け入れてもらった。「彼らの尊厳に配慮する必要があります。貧しい人ほどメンツを重んじますから」と言う。
作り過ぎたパンが売れ残ると、使った卵も小麦粉も、水も電気も無駄になってしまう。それを人助けの資源とするのは良いのだが、「余ったら寄付すればいい」というので、かえって作り過ぎて無駄が増えることがあってはならない。
100個近いパンの配布を受けている陽光ガソリンスタンドの職員は「どんなに多くても多過ぎることはない」と言う。弱者の多くは生活困窮世帯の出身で、家族も食糧を必要としているからだ。
ただ、パンを寄付する店はまだ少数で、大型スーパーなどでは閉店後に廃棄用トラックが回収していると聞く。
陽光基金会事業部の楊智安・経理は、かつて喜憨児ベーカリーで店長をしていた時にはパンの寄付をする側だった。「ベーカリーでは、棚いっぱいにパンが並んでいないと売れ行きに影響するのです」と言う。マーケティング戦略で、作り過ぎと分かっていても棚を埋めるために作り続け、それが必要悪になっているのである。チェーン店では廃棄率を12%ほどに抑えるようにしているが、それを5%まで下げると、売上は逆に3割下がるという。
コストと売上の間でベーカリーは緻密な計算を求められる。和平団の王薪如・マネージャーによると、SunMerryのように生産量を抑えて入出荷管理の効率を上げている店もあるという。
パンの廃棄処理費も少なからぬ支出である。フードバンクへ寄付すれば一挙両得で、1店舗当たり月に1万元以上の処理費節約になる。
パンの浪費状況は国によって異なる。イギリスの調査によると、同国の家庭では年に440万トンのパンを廃棄しており、3個に1個は捨てていることになる。トルコの業界による6月の報告では、売れ残りのパンが「毎日」600万本廃棄されており、その金額で学校が500校建てられるという。
台湾ではパンの浪費に関するデータは公にされていない。台北市と新北市でパンを寄付している100余店だけで台北101の14倍の高さになるのだから、全台湾で廃棄される量はどれほどになるのか。それが思いやりの心とともに人々の役に立てば、どんなにいいことだろう。