『白蛇伝』のつまずき
経済協力協定締結より早く、台湾はニュージーランドと共同で映画を作る機会があったのだが、好機をうまくとらえられなかった。
当時はおりしも、2003年に『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』が前2作に続き大ヒット、11億米ドルの興行収入で同年トップになった。6位はトム・クルーズ主演の『ラストサムライ』だったが、これもニュージーランドでロケが行われ、北島のタラナキ山の風景が見られる。まさにニュージーランド映画産業が輝いた1年だった。
台湾のヒット曲『龍的伝人』で知られるフォークシンガー、侯徳健は当時すでにニュージーランドで市民権を得、デジタル・コンテンツ技術を習得していたほか、3D特撮産業にも触手を伸ばしていた。2001年、『ロード・オブ・ザ・リング/旅の仲間』の成功を目の当たりにして、侯は3D特撮の魅力を確信し、この西洋の科学技術で中国伝統の物語『白蛇伝』を映画化しようと考えた。
翌年の2004年7月、全編英語による『白蛇伝』3Dアニメ撮影計画を携えて台湾に帰国、記者会見を開き、ニュージーランドの2社と契約すると発表した。うち1社は映画制作会社Silverscreen(2007年に任意整理によって倒産)、もう1社は『ロード・オブ・ザ・リング』の特撮を担当したOktobor社だった。
『白蛇伝』は主に台湾とニュージーランドから資金4000万米ドル(13億台湾元)を募る計画で、両国政府とも大いに興味を示していた。我が国の新聞局と経済部は、デジタルコンテンツ産業推進にとって重要な投資と見ていた。侯徳健の友人で、国立台南芸術大学アニメ芸術及映像美学研究所の余為政・教授は当時、技術面での協力を買って出て、主要シーンの絵コンテを作成した。
余為政は当時「光華」の取材を受けた時、具体的なロケ地まで決めていた。『ラストサムライ』で使われた日本のロケ地を中国の西湖に見立て、白蛇と僧が戦う「水漫金山寺」のシーンは、波を起こす池のセットを作ることになっていた。また、ニュージーランド側はハリウッドの監督を2人推薦していた。うち一人は『13デイズ』の監督、ロジャー・ドナルドソンだったという。
キャストは、ニュージーランド側の意向で、法海和尚役に『ロード・オブ・ザ・リング』でガンダルフ役を演じたイアン・マッケランの名が上がっていたが、結局は『羊たちの沈黙』のアンソニー・ホプキンスになった。また台湾側からも、『グリーン・デスティニー』で玉嬌龍を演じた章子怡に白蛇役を、相手役の許仙には金城武を第一候補とする希望が出され、了承も得ていた。
2006年のクランクインが予定され、あらゆる準備が進んでいたが、結局は実現しなかった。資金繰りが大きな原因だった。「台湾のベンチャーキャピタルとは話が進み、問題はなかったのですが、主要資金源からの承諾が遅々として得られませんでした」当時は政府がまだ3D映画に自信を持てなかったことが原因ではないかと、余為政は考える。「あと一歩だったのですが」
台湾とニュージーランドが映画産業で初めて接点を持ち、すれちがった出来事だった。
かつて、台湾とニュージーランドの初の協力による3D特撮映画『白蛇伝』制作の話が持ち上がったが、結局は実現しなかった。写真は、台南芸術大学の余為政教授が描いた映画『白蛇伝』の絵コンテ。