SARS感染の判定方法
急速に蔓延する伝染病に対して、防疫面では「緩いよりは厳しすぎる方がいい」という姿勢で取り組まなければならない。SARS警報が出されてからは、流行地域を訪れたり、患者や関係する人や物と接触した人が熱を出した場合は、SARSの「疑い例」とされることになった。さらに胸部のX線に浸潤(局部的な白い陰影は白血球や体液などが集まっていることを示す)が見られる時には「可能性例」とされる。
ただ国民健康保険の記録によると、台湾では毎月2万人あまりが肺炎の症状を見せており、こうした一般の肺炎患者がSARSと誤診されるのを避けるために、さらにRT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)法で検査を行ない、検体中のSARSウイルスを確認する必要がある。
SARSの経過と感染経路
SARの潜伏期間は2〜7日、最長で10日間だ。
研究によると、感染初期にはウイルスは宿主体内の細胞内での複製に忙しく、そのため症状は出ず、他への感染力もない。体内でウイルスの数が一定レベルに達した後、ウイルスは細胞を破って出てくるため、この時点で身体の免疫系統が働き始める。
免疫とウイルスの戦いの結果、発熱や咳などの症状が出始め、この時期から「飛沫感染」や「接触感染」(患者の口や鼻から出た飛沫や排泄物などに触れた手で自分の口や目や鼻などの粘膜に触れて感染する。ウイルスが皮膚に触れただけでは感染することは少ない)などを通して、外部にウイルスを伝播し始める。
発症から1週間後、患者の発熱はピークに達し、その後ウイルスの力を知った身体は抗体を作り始める。抗体の作用によってウイルスは減少していき、発症から2週間後には大部分の患者の体内からウイルスは検出されなくなる。体内にウイルスの遺伝子が残っていたとしても、その多くはすでに完全な形を成さなくなっている。発症から3週間後には抗体がピークを迎える。これは一般のウイルス感染の場合より1週間ほど遅い。
SARSは不治の病ではない?
SARSウイルスを殺すのは難しくないのに、発症者の死亡率が10〜20%とインフルエンザより100倍も高いのはなぜだろう。
現在のところ、患者を死に至らしめるのはSARSウイルスではなく、患者自身の免疫反応だと見られている。初めて侵入してきたウイルスに対し、人の免疫系統は白血球やリンパ細胞を総動員して戦おうとする。これが肺の深刻な炎症と破壊をもたらし、さらに肺の繊維化をもたらすと考えられるのである。これによって本来は柔らかい肺が石のように硬くなり、呼吸困難に至る。
データを分析すると、もともと肝臓や肺、腎臓などに慢性疾患を持つ患者や身体の弱っている高齢者が重症に陥りやすい他に、20〜50歳の青年・壮年層に重症患者が多く、逆に免疫機能が発達していない幼児には少ない。この点からも、上記の推測が裏付けられそうだ。
今もSARSの有効な治療法は確立していないが、生存率を高めるために次のような治療が行なわれている。初期の場合、まずインターフェロンやリバビリンなどの抗ウイルス剤を投与し、体内でのウイルスの大量の複製を防ぐ。中期に入ってからは、患者の免疫系統が過度に働くのを避けるためにステロイドや免疫グロブリンなどを使用し、免疫力の低減と調整を図る。ただこの場合、免疫力の低下によって他の細菌に感染することが別の不安として持ち上がる。医療関係者は、SARSの症状は起伏が激しく、治療も綱渡りのように難しいと言う。
症状の後期になると、多くの患者は人工呼吸器の使用を必要とする。この段階に入ると、細心のケアと支持療法の他に、患者自身の生命力と運に頼らざるを得ないのが現状だ。
残念なことに、ウイルス感染はしばしば後遺症を残す。回復した患者でも肺の繊維化がそのまま障害として残ることもある。さらに心配されるのは、1918年に大流行した「スペイン風邪」では一部の患者に昏睡症という後遺症が残ったことで、現在一部の専門家は、SARSウイルスが脳を侵して中枢神経に病変をもたらすことを心配している。
SARSの症状に影響する要素
同じSARSに感染しながら、人によって症状に軽重がある。発熱だけで収まる人もいれば、発症して間もなく亡くなる人もいるが、その違いはどこからくるのか。専門家は、最初に接触したウイルスの「量」が最も重要な要素だと見ている。ただ、SARSウイルスは変異を続けているため、一部に特に強いウイルスがあるのではないかという疑問もあり、医学界もまだこの可能性を否定していない。これらの疑問が解明されるには、まだ時間がかかりそうだ。
この他に、香港で集団感染が発生したマンション、アモイガーデンに暮している兄から感染した曾氏や、和平病院の患者の曹氏などの重症患者の検体からは、SARSウイルスの他に通常の細菌性肺炎の典型的な原因菌が2種類発見されている。このように数種の病原体と併せて感染した時も、患者の症状は重くなると見られている。
SARSは中国大陸の広東から感染が始まったため「中国の伝染病」と呼ぶ人もいる。SARSの被害を受けた国々を見ると、すでにカナダやベトナムでは感染の状況は緩和しており、現在では中国大陸と香港と台湾だけがまだ苦しい戦いを続けている。SARSウイルスは、特に華人を「好む」ということがあるのだろうか。医学界ではすでに華人のHLA(ヒト白血球抗原、白血球の型)の分析に着手している。確かに、ウイルスはある種の「体質」の人を選んで宿主とする可能性はある。しかし「人種」に対する偏見を持っているとは言えないだろう。