諦めず、夢を追い続ける
若い頃の厳栄宗は、篆刻芸術のため短期的に絵を学んだだけだが、2008年に偶然訪れた油絵展でかつての記憶を呼び覚まし、30年を経て再び絵筆を執った。正式な訓練を受けていない厳栄宗は、武術の基礎訓練のように、視覚科学を基礎に、目の構造や色彩や明暗から研究を始めた。
厳栄宗の最初の作品「書丹湾の夕陽」は、他の芸術家から評価され、カナダのGaribaldi美術クラブの年次展において、90人の画家から投票で最優秀作に選出された。この作品はポスターにもなり、大きく異彩を放った。
華やかな光を放つ美しい夕陽の作品の前に立つと、あたかも暖かい光に包まれているような気がする。画中の書丹湾はどこかと聞かれると、厳栄宗は悪戯っぽく微笑み、頭の中にある妻と散歩したいと思う場所と答えた。自分のロマンチックな想像を絵に持ち込み、夢のような美しい場所を描いたのである。
厳栄宗が追い求めているのは、作品の光と影の表現であった。ある展覧会において、厳栄宗の作品が暗い片隅に展示されたことがあった。深い色の背景の作品は、十分な光が当たらないと濃淡を失い、繊細な濃淡は消えてしまった。多くの画家がライティングで作品の効果を上げようとすることは知っていたが、彼自身は自作がライティングや展示の場所などの外在的要素に影響されて、本来の色彩を失うことは望まなかった。そこで、追光技法を生み出し、色温度の相互補完理論を研究して、寒色暖色の補完技法を運用し、どのような環境にあっても、ライティングが設置されているような光沢を生み出すことにした。
厳栄宗の絵画を目にすると、一瞬で鮮やかな美に惹きつけられるだろう。その静物画は、手を伸ばせば触れることができるほど、生き生きとして見える。2013年にカナダの全国静物画展で二位を取った作品「ジャングル・ジュース」では、作品に描かれたブドウは艶やかに輝き、黄色いメロンは甘くジュースたっぷりのようで、思わず唾が出てきそうである。
その精密な技法により、厳栄宗は3年連続してカナダ連邦芸術家協会の国際展に入選し、カナダの美術界で頭角を現し、2016年には現代芸術家への最高の栄誉と称される同協会の会員に選出されて、この栄誉を勝ち得た台湾出身の最初の画家となったのである。
書丹白露を完成させた厳栄宗は、早朝3時には起床して深夜まで作画を続けるのだが、筋肉の過度な使用により筋萎縮の病状が悪化していった。今では、創作時には特性のハンガーで腕を空中に固定しないと、作業ができなくなってしまったという。
そうはいっても、厳栄宗は限りある生の中にあって、一秒をも惜しんで時間を追い続け、心の中の美を描き続ける。厳栄宗の人生の辞典には不可能という文字はない。これまでと同じく夢を追い、その生の光を求め続けているのである。
幾度もの骨折を乗り越え、あらゆる困難を克服して自らの手で建設した愛の城。
『サンセット・ハーモニー』。厳栄宗の絵画は立体感が際立ち、まるで絵の中で暖かい夕日を浴びているかのように感じる。
互いに支え合う厳栄宗と妻の書丹は、絵のような「書丹白露」荘園(右)で生の希望を追求している。(林旻萱撮影)
互いに支え合う厳栄宗と妻の書丹は、絵のような「書丹白露」荘園(右)で生の希望を追求している。