30以上の国で3000回以上の公演を行ってきた舞鈴劇場は、2023年に外交部（外務省）に選ばれてフィリピンとブルネイに赴いた。そして、これまでの集大成ともいえる名作『生命之光』を披露した。

今回のフィリピン公演では、子供たちにもディアボロのおもしろさを体験してもらった。（フィリピン中華文化経済総会・蔡懐強氏提供）

観客の沸いたフィリピン公演

10月8～12日、舞鈴は巡演のスタート地点であるフィリピンに滞在した。

このツアーは中華民国国慶日と重なっており、初日の国慶日レセプションでは20分間のハイライトバージョンを披露。その後、カルロス‧P‧ロムロ劇場とフィリピン中華文化経済総会大礼堂で『生命之光』フルバージョンを演じた。

ディアボロは音楽、照明、映像などとともに、時には主役に時には脇役になりながら、ダンスやアクロバットも組み合わされて、生命が探索の旅を繰り広げていく物語を描き出した。

『生命之光』には台詞がないうえ、登場人物の一人「海洋女神」が歌う曲はオーストロネシア語系の歌詞だったが、観客は舞台に見入っていた。

公演の中ほどには、観客に舞台上でディアボロを経験してもらう趣向もあった。まるで魔法使いにでもなったかのように少しの動作でコマが滑り始める興奮を体験でき、しかも終わるとディアボロがプレゼントされたので、「次は私に」と観客席が沸き立った。

『スコティッシュ‧フィールド』誌のジェレミー‧ウェルチ氏は舞鈴の公演について「是非チケットを買ってみてほしい。後悔はしないから」と推薦文を書いている。1550名を超えるフィリピンの観客もこの言葉にうなずくだろう。

数十年にわたる巡演の経験で、彼らはどこに行っても直ちに適応する能力を養った。フィリピン中華文化経済総会大礼堂では高低差のある舞台にしようと、夜通し舞台設営や照明の調整を行った。こうして無事に公演を終え、観客から万雷の拍手が送られた光景を、団長の劉楽群さんは今も忘れられない。「観客の反応からは多くのエネルギーをもらいます」と彼は言う。

彼はこんなエピソードも紹介してくれた。現地の英字新聞で最大の発行部数を誇る『マニラ‧ブレティン』のバデット‧クナナン広報マネージャーが2日目の公演終了後に彼のところに来て、「本当に素晴らしい公演で、台湾に行きたくなりました」と挨拶してくれたという。国や言葉の異なる人々に「台湾を知りたい」と思ってもらえるのが最も嬉しいと劉楽群さんは言う。

フィリピンでの3日間の公演は、地元の多くのメディアに大きく取り上げられた。

舞鈴の創る芸術は、一部の人だけのものではなく、多くの人にとって身近なものでありたいと、劉楽群団長は言う。（林旻萱撮影）

ブルネイとの友好関係

次の目的地は10月19～24日まで滞在のブルネイだった。舞鈴は初めて同国で公演を行った台湾の芸術団体となった。もちろん舞鈴にとっても初めて踏む国土だった。

ブルネイの台北経済文化代表処の尽力により、首都バンダルスリブガワンのジュルドン‧インターナショナルスクール（JIS）のアートセンターで公演を2回披露し、各国の外交官や地元当局者から好評を得た。

また、ブルネイ初の特別支援学校であるプサット‧エーサン校にも特別に赴いて、学校の生徒や教員のために公演や交流活動を行なったことで、思いがけず話題を集めた。

学校であっても、本格的に照明や音楽を使用して『生命之光』ハイライトバージョンを演じた。そして、やはり生徒たちにディアボロなどの使い方を教え、実際に体験してもらった。

そのうち一人の生徒は、言葉が通じないながらも積極的に団員とコミュニケーションを取ろうとし、終了の時間が来てもディアボロの使い方を「もっと教えてくれ」と言うのだった。その熱心な様子は、その場にいたすべての人に深い印象を残した。

ブルネイの政府系英字新聞『ボルネオ‧ブレティン』は10月24日の第1面でプサット‧エーサン校での舞鈴劇場の公演の様子を掲載した。また英語のほかマレー語や華語のメディアも連日取り上げた。どの報道も「見事なパフォーマンスで、各界からの好評を得ている」という内容だったので、チケット入手が難しいという状況も招いた。とりわけ学校への訪問は、チャリティー精神に満ちた台湾の一面を感じさせるものとなった。

外交部主催の今回のツアーは、芸術活動を通じて台湾が発信する機会となっただけでなく、台湾が東南アジア諸国との交流を推進する「新南向政策」に沿うものになった。

ダンサーやディアボロの動きに映像や照明、音楽を合わせる。舞鈴の得意とするパフォーマンスだ。（駐ブルネイ代表処提供）

台湾ブランドの創造

こうした目覚ましい成果の裏には、舞鈴が芸術や美を追求してきた長年の努力がある。

このことは、フィリピン中華文化教育センターの王映陽主任が最もよく感じているかもしれない。彼女は17年前のフィリピン公演でも舞鈴に同行したからだ。「舞鈴は十数年前と比べ、少しどころか飛躍的に成長したと、言ってくださいました」と劉楽群さんは言う。

このように規模の大きい公演を組むには共に働く仲間が重要だと劉さんは考える。舞鈴の作品は「集団創作」だ。演出家の出したコンセプトに、団員や各芸術ジャンルの専門家が意見を出し合い、それを融合させて舞台を創り上げる。「人と人との有機的なつながりがあってこそ、それぞれをまとめてこうしたコンテンツを作り上げることができます」。また、台湾が国際的に歩み出るには、「腕力や強さに頼るのではなく、芸術や創作、文化を伝えることで多くの人に影響を及ぼすのが良い方法だ」と劉さんは考える。

舞鈴ならではのこうしたノウハウが秀作『VALO』シリーズを生み出した。しかもカナダのエンターテイメント集団シルク‧ドゥ‧ソレイユが舞鈴の活躍に目を留め、数年前に合併を提案してきた。だが劉さんはその申し出を断った。

「彼らの評価には感謝するし、良いチャンスだと言えるでしょう。でも彼らに加わると、私の考える舞鈴の姿を実現できないと思ったのです」

では、舞鈴のあるべき姿とはどのようなものなのだろう。ディアボロの劇団か、それともダンスやアクロバットの劇団なのか。「外部からどう定義されようと、舞鈴は特定の種類に限定されないし、誰とも似ていません。我々はただ『舞鈴』という精神に過ぎません」

この精神は、彼らのロゴが無限を象徴する円であることに表れている。枠や限界にとらわれない自由なパフォーマンスで、観客を心の中の「ネバーランド」へといざなう。生まれながらにして持っていた想像の翼を取り戻し、ピーターパンのように喜びに満ちて舞い上がる。「それは誰もが生まれながらにして持っているものです」と劉さんは言う。観客席で親子が劇のストーリーについて考えを言い合っているのを見ると、劉さんはいつも嬉しくなる。「なぜなら劇場ではどの人にも自分にしかない物語を創り上げてほしいと我々は思っているからです」

自分たちがより多くの創造性や経験‧技術を受け入れるプラットフォームであり続けること、それが劉さんの願いだ。「ずっとわかっていたのです。私が創りたいのは、さらに多くの台湾の芸術家が輝ける場所だということを」

駐フィリピン代表処提供

ブルネイのジュルドン･インターナショナルスクールと特別支援学校のプサット･エーサン校を訪問し、生徒たちにディアボロなどを体験してもらった。（駐ブルネイ代表処提供）

『生命之光』で「海洋女神」が歌う曲はオーストロネシア語族の言葉を集めて書かれたものだ。（駐ブルネイ代表処提供）

強烈な光や音楽を武術と組み合わせ、視覚的、聴覚的なインパクトを生み出す。（駐ブルネイ代表処提供）

劉楽群さんの「舞鈴の夢」は、台湾のアーティストたちの舞台への情熱と努力のおかげで輝き続けている。（駐ブルネイ代表処提供）