異郷での暮らしと縁
独立心が強く、幼い頃から故郷を出て世界を見たいと思っていた丁安妮にとって、ラジオ番組の司会は数々のチャレンジの一つに過ぎない。2001年にインドネシアを後にし、台湾へ働きに来た時も、心は世界への好奇心に満ちていた。
当初、台湾へ行きたいという思いを口にすると、家族から強く反対された。母親は末娘を遠くへやりたくなかったのである。彼女は一年をかけて説得し、ついに母親の了承を得た。
家を離れての一人暮らしは初めてではなかった。高校の時、彼女は新鮮な経験がしたくて家から離れた学校を受験した。しかも家族に隠して近所の人に書類を出してもらい、ようやく余所の土地の学校に通うことができた。台湾に来た当初は介護の仕事に就いた。介護は大変な仕事だが、彼女は「知らない人に出会える」と楽しく働くことができた。
ただ、思ってもいなかったことに、初めての台湾で異性との縁が待っていたのである。
台湾に来る前、彼女は台湾人と結婚することになると言う友人がいたが、丁安妮は絶対にそんなことはないと思っていた。イスラム教徒の彼女は同じ信仰の人としか結婚できず、台湾ではそれはあり得ないと思ったからだ。それでも「何が起こるか分からない」という思いもあった。
丁安妮は病院で、現在のご主人のおじいさんの介護をしていた。彼は毎週、祖父の見舞いに来ていた。黙って来て、黙って帰っていくだけで、二人が言葉を交わすこともほとんどなかった。それでも彼はいつも何かしら買ってきて丁安妮にプレゼントしていて、言葉に出来ない思いが垣間見えたが、丁安妮は何も気づかず、傍らにいた看護師から「患者さんのお孫さんは、あなたのことが好きみたいよ」と言われたのである。丁安妮は驚きと喜びを込めて「そんなバカな!」と言った。結婚して十数年たった今も、その時を思い出すと笑いながら語気も優しくなる。
しかし、イスラム教の戒律では、同じ信仰の人としか結婚できない。最終的に、彼女は一週間にわたって彼を説得し、彼もイスラム教徒になったのである。
独立心が強く、新しいものにチャレンジするのが大好きな丁安妮は、3年余り前に新たな挑戦としてラジオ番組の司会という仕事を引き受けた。(荘坤儒撮影)