弱者の声を
台湾メディア観察教育基金会が一般市民による監督を代表しているとすれば、多くのNGOが手を組んで組織する「公民参与メディア改造連盟」は台湾の弱者の声を集めたものと言える。
2005年7月、衛星チャンネル事業許可更新の際、女性、同性愛者、児童、心身障害者など21の民間団体がこの連盟を結成した。それから1年の間に、さらに医療、教育、環境、反原発、コミュニティカレッジなどの団体も加わり、今では70のNGOが参加している。
婦女新知基金会は、この連盟の発起団体の一つだ。同基金会のメディアおよび教育推進部の王正彤;主任によると、社会運動界では当初、女性や同性愛、児童、心身障害者に対して、台湾の報道メディアがステレオタイプの否定的なイメージを持って表現していることが、長年にわたる社会の偏見につながっていると考えた。そこで連盟を結成し、民間の力を結集してメディアを監督しようと考えたのである。
台湾メディア観察教育基金会と同じく、公民参与メディア改造連盟に加わっている弱者団体が最大の関心を寄せているのは人権侵害の問題だ。そのため、結成時に連盟は「報道と人権のルール」を提出し、現在のメディアによく見られる人権侵害について改善を提言した。
連盟の努力と圧力によって、今年3月にCATVチャンネル業者が衛星電視公会を組織した際、報道自律委員会と報道諮問委員が置かれることとなった。連盟はこの自律規約の制定にも参加し、「報道と人権のルール」の精神をそこに取り入れることができた。また24名からなる諮問委員のうち7名は連盟のメンバーで、社会運動とメディアの緊密な関係が実現することとなった。
かつて弱者団体とメディアは対立することが多かったが、連盟はこの関係を変え、良好な協力関係とコミュニケーションルートを確立する道を選んだ。衛星電視公会の自律規約には罰則がなく、今も規約違反の事例は少なくないが、王正彤;さんは、このようなコミュニケーションによって少なくとも弱者団体の要求の正当性が増したと考えている。「私たちは体制内で積極的に参与して意見を出していきます。ただ、一定期間を経た後、この方法で効果が上らないようなら、体制外での抗議の道に戻る覚悟です」と言う。
この二つの団体の事例からわかるように、強大なメディアに対して一般市民や弱者が集団の力で自らの権利を主張するようになってきた。メディアと市民の関係は、単純な対立でもなければ協力関係でもない。メディアが社会を監督し続けている以上、社会も厳しくメディアを監督していかなければならないのである。
報道と人権のルール
1.プライバシーの尊重
・取材を受ける側の意思を尊重し、当事者の同意のない盗み撮りなどは決してしない。
・個人の性的傾向や性生活は公益とは関わりのないプライバシーである。公人、芸能人、一般市民に関わらず、本人の同意なしに性的傾向や性生活について報道してはならない。
・児童や少年本人およびその保護者の同意なく、誘惑あるいは追跡して撮影取材をしてはならない。保護者の同意があっても本人が同意しない場合は、当事者の意思を尊重する。
2.犯罪報道について
・犯罪者にも基本的人権がある。例えば、麻薬パーティで逮捕された者の裸体映像を放送してはならない。
・捜査非公開の原則を遵守する。例えば、警察による捜査用映像は放送してはならない。
・審判が確定していない事件の情報は報道しない。被害者、容疑者、関係者の情報(特に家庭内暴力、性的侵害、セクハラなどの事件、および未成年の家や保護地点)などは公表しない。
・再現ドラマやCGやアニメなどの手法で、過度かつ直接的に犯罪プロセスを表現しない。
・犯罪者や自殺者を英雄化しない。
・制度による解決を尊重し、一方的に被害者を非難しない。
3.病院、患者、自殺の報道
・病院は病人を助ける場であり、患者の生命と権益に関わる。記者は随意に病院に入り、患者の安静や医療を妨げない。
・記者は救急治療室で取材や撮影を行なってはならない。
・テレビ局は特定の製薬会社や病院・医師などのプロダクト・プレースメントによって誤った情報を伝えたり、患者の権益を損なったりしてはならない。
・自殺については、憶測や過度の重複報道によって遺族や友人に第二の被害を負わせてはならない。
・死者を尊重し、遺体を直接撮影したり、不快な映像処理をしてはならない。
4.弱者に関する報道
・弱者の報道ではレッテルを貼る表現や差別的表現を避ける。前者では例えば、新移民女性を「外国人花嫁」「大陸花嫁」などと呼ばない。後者は例えば、児童少年の弱者(行動に偏りがある、未婚の妊娠、心身障害など)については、特に主観的、道徳的判断を加えた報道をしてはならない。
・弱者を否定的にとらえることは避ける。例えば、児童少年、原住民、同性愛者、一人親、離婚または国際結婚家庭などの犯罪や社会問題を繰り返し報道してはならない。
・弱者を他者化し、好奇の目で見ることを避ける。
5.女性を物として扱わない
・女性の身体を商品化した結婚仲介業の広告を放送しない。
・女性の身体を物化する表現をしない。例えば「F4ガールズ(セクシータレント)の出演料は乳房単位、一つ2500元」「F4ガールズが乳房に2億元の保険をかける」など。
台湾のメディア観察監督機構
・Media Watch http://www.mediawatch.org.tw/
・Citizensユ Coalition for Media Reform http://blog.yam.com/citizenwatch/
・Campaign for Media Reform http://www.twmedia.org/
・Media Monitoring Alliance http://www.mma.org.tw/
・National Communications Commission http://www.ncc.tw/