汚染を出さない「空気の靴」
台中に本部を置き「空気で靴を作る」ことを標榜する大気電漿(AP Plasma)は、もう一つの優れた製靴技術を持つ台湾のスタートアップ企業である。創設者の張加強博士は、中部サイエンスパークのAIロボティクスハブの展示エリアで、1台のマシンに手を伸ばし、「どうぞ、触ってみてください」と言う。マシンの下部にはロケットの噴射器のような「オーロラ‧ジェット‧ノズル」がある。スイッチを入れると、すぐに炎が噴き出すが、張加強は平気な顔で炎の中で手を動かしている。
「噴き出している炎のようなものは実は人工のオーロラなのです。この技術を用いれば、異なる材質を接着剤を使わずに貼り合わせることができます」と言う。台湾の工業技術研究院に14年勤務してきた張加強はアメリカのR&D 100 Awardやウォール‧ストリート‧ジャーナルによるテクノロジー‧イノベーション賞も受賞している。彼が開発した「3Dエア‧オーロラ」システム(ATM-3)は、空気とAIを活かしてオーロラを噴出させる装置で、これを用いて靴のソールを貼り付けることができ、従来の有毒接着剤の使用やバフ研磨などの工程を省くことができる。この発明により、それまで1足当り1分かかっていた接着とバフ研磨の時間を10秒まで短縮でき、有毒化学物質を完全に排除できることから、2020年に「エネルギーグローブ賞」にも輝いた。
オーロラは、大気中のプラズマに磁場が作用して形成される。プラズマは稲妻や太陽風などのように自然界に普通に存在し、大気圏の外の電解層もプラズマである。そのために「物質の第四の状態」とも呼ばれる。
「プラズマは非常に強いエネルギーを持つもので、気体が解離した後に生じるイオンの束です」同社の林経智‧副総経理は私たちをATM-3の前へ案内してくれた。ロボットアームが生産ライン上をスピーディに動き、オーロラ‧ジェットを靴底に噴射している。驚いたことに、ラインを流れる靴は一足一足形状も色も異なるのだが、オーロラ‧ジェットはわずか数秒で靴底全体に均等に噴射されるのである。
「これによって、二つの異なる材質が完全に融合するので、靴底からソールがはがれるようなことはありません」と林経智は説明する。従来の靴の製造工程では、まず靴底をバフ研磨し、接着剤を全体に塗布してソールを貼り付けなければならない。だが大気電漿はこのオーロラ技術によって、バフ研磨や、化学薬剤使用、上処理などの複雑な工程を1秒まで短縮することに成功した。その間に汚染を出すこともない。「空気」を原料としているというのが、スマート製造の威力を見せつける。
大気電漿(AP Plasma)を創設した張加強博士は博識で頭の回転が速く、アメリカのR&D 100 Awardやウォール・ストリート・ジャーナルによるテクノロジー・イノベーション賞も受賞している。