毎年9～12月前後は柿のシーズンだ。農業委員会の統計によると、台湾の柿の主な産地は、台中の東勢、嘉義の番路、苗栗の公館、台東の卑南、そして新竹の北埔などである。

台湾には赤くて歯ごたえのある甜柿と、柔らかい水柿のほかに、人工的に渋を抜かなければ食べられない渋柿があり、渋柿の大部分は干し柿にされる。新竹県新埔鎮の旱坑里は、丘陵地形で、湿度が低く乾燥しているので干し柿づくりに適しており、台湾の干し柿の8割がここで生産されている。一面がオレンジ色に染まった「柿の世界」は秋ならではの美しい風景だ。

干し柿の食感や甘さは品種によって大きく異なる。柿乾（右）は干し柿をさらに乾燥させて水分を30％まで落としたもので、生薬として薬膳スープを作ることもできる。

おいしい柿

文献によると新竹の干し柿づくりの歴史は160年になり、これは客家の保存食の知恵である。新竹県では、秋になると「九降風」と呼ばれる山からの強い風が吹きおろし、強い日差しと冷たい風が、渋くて食べられなかった柿を甘い干し柿にしてくれるのである。

干し柿づくりは早朝4時の皮むきから始まる。太陽が出ると同時に干さなければならないからだ。干し柿づくりに携わって40年になる「味衛佳柿餅教育農園」の呂理鑑さんはこう話す。「私たちは寒波が来ると嬉しくなります。九降風が一週間も吹き続ければ、安心して眠れます。一番心配なのは露だからです」。彼は父親が「干し柿づくりは手に卵を載せているようなものだ。少しでも気を抜くと、すべてが無駄になってしまう」と話していたのを覚えている。雨が降り始めたら、急いで外に出してある柿を取り込まなければならない。濡れれば腐ってしまうからだ。

「石柿」という品種の干し柿は甘くて歯ごたえがあり、「牛心柿」のものは果肉が多い。呂理鑑さんは、天日干しの時間と乾燥温度の調整に成功し、12月に台中市の東勢区で採れた「筆柿」を甘くて柔らかい干し柿にすることを可能にし、甘いもの好きの消費者は、このおいしい干し柿が出る時期を待っている。

干し柿は専門的な冷凍技術によってさらに水分をゆっくりと蒸発させると、糖分が表面に白い粉状に固まってくる。これが天然の「柿霜」と呼ばれるもので、「よい干し柿には柿霜がある」と言われる。これをクコの実などと一緒にチキンスープにすると、熱を冷まし、痰を切る効果を持つ薬膳スープになる。

秋になり「九降風」が吹き始めたら、「黄金の柿の世界」の写真を撮りに行こう。

「柿の世界」を写真に

今は誰もがスマホで写真を撮るようになったが、干し柿づくりを撮影するために、多くの人が専門のカメラを手に新埔にやってきて、棚に並べられた柿をさかんに撮影する。干し柿を作る観光農園は入場料を取らない。呂里鑑さんは、毎年写真を撮りに来る人々と親しくなり、季節になると「理鑑さん、また一年がたちましたね」と声をかけられるそうだ。

呂理鑑さんは昔ながらの天日干しの方法を守っている。時間をかけて熟成させることで、おいしさも増す。

柿渋染め体験

以前、地元の農協は余剰の柿を堆肥にしていたが、「味衛佳」の四代目に当たる呂易丞さんは、玄奘大学やバイオ企業と協力して、枝から落ちた実の果肉や皮からタンニンを抽出し、それを用いたシャンプーや化粧水などを開発している。こうすることで、柿のすべてを活かして経済効果を上げることができる。

干し柿づくりの季節を逃しても悔しがる必要はない。他の季節にも楽しみがある。実は柿の果汁には豊富なタンニンとペクチンが含まれており、これを染料にすることもできるのである。2010年、新埔鎮役場では新北市三峡の藍染めを参考に「柿渋染め」を新埔の特色として打ち出すことにした。果樹園で枝から落ちた果実や、形が悪くて売れない果実を購入して染料にしており、物を大切にする客家の精神が活かされている。

天染工坊の陳景林さんが柿渋染専門家とボランティアを育成し、新埔鎮役場が柿染工房を設立した。これにより、女性たちに再就職の機会を提供し、また観光客は、季節を問わずに柿渋染めを体験できるようになった。

工房の周辺には発酵した柿渋液の酸っぱい匂いが漂っている。柿染坊総幹事の鍾夢娟さんによると、柿渋液は1～2年をかけて酸化させると熟成して色が濃くなるという。絞り染めや板締め絞りなどの手法を用いると、褐色や灰色など、アースカラーに染まる。ここでハンカチやバッグなどを購入することもでき、柿渋染め体験は新埔での新たな楽しみになっている。

「味衛佳」三代目の娘である劉竹英さんと劉珍珠さんは、農繁期になると嫁ぎ先から帰省して柿の収穫を手伝う。

柿渋染めで褐色や灰色のアースカラーに染まった布地は、自然に親しむ素朴な生活を感じさせる。