あきらめないことこそ真の勇気
「あきらめないことこそ本当の勇気だと思います」と鄭恵如は言う。2016年、銘宇興業と食芸餐飲は、飲食企業として台湾初のB Corp認証を取得した。その創業者である林恵如は「フォーブス」誌によるアジアの「30 UNDER 30(30歳未満の30人)」に選ばれた。
師範大学社会教育大学院で学んでいた時、彼女は米国ペンシルベニア州のNPOであるB Labが打ち出したBenefit Corporation(B Corp)運動に共感した。また、左乙萱教授のフェミニズムの授業では、弱い立場の女性に関心を注ぎ、マイクロ起業を指導すること、また女性指導者の育成によって女性が自信を持って経済的に自立することの大切さを学んだと言う。
父親はコンピュータ開発に従事する管理職、母親は教職という恵まれた環境で育った林恵如だが、常にボランティア活動に参加し、弱者の困難を目の当たりにしてきた。「子供の頃に母親に連れられて養護施設にも行きました」と言い、幼い頃から、社会にはさまざまな人生があることを理解してきた。2011年に行政院青年輔導委員会でボランティアを、続いて青年諮問委員に選ばれ、そこで楊博宇と出会った。二人は社会的弱者には「魚をあたえるだけでなく、魚の釣り方を教えるべき」という理念で意気投合し、一緒に家庭を持つこととなった。
「私たち夫婦が最初に飲食業を始めたのは、碧潭のフードコートでした」と鄭恵如は言う。「私たちは、社会の役に立つと思うことは何でもやろうという考えで、店ではしばしばチャリティイベントを開きました。子供の日や母の日といった書き入れ時に、逆に家庭扶助センターの子供たちに食事を提供したりしていたところ、思いがけずそれがB Corpのモデルにかなうと評価されたのです」と言う。
鄭恵如と楊博宇は、社会に役立つことをと考えて歩んできた。彼らが実践しているのは、食事の供給(飢餓をなくす)、弱者の優先的な雇用(貧困をなくす)、オンラインでのSOP学習(質の高い教育)、同一労働同一賃金(ジェンダー平等)、小規模農家や社会的企業の商品を採用(持続可能な消費と生産)、グリーン建材の採用(環境保全と持続可能性)など、どれも国連が打ち出す17項目の持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)にかなっている。
建築を学んだ楊博宇は、学生時代に弟の楊宗融と一緒にグリーン建材と環境保全の理念を活かしてビジネスを始めた。十数年前、家庭扶助センターの案件で兄弟は飲食業に触れることとなる。「彼らは飲食店を開こうとしていたのですが、資金も技術もありませんでした」と言う。そこで兄弟は資金を出し、店を設計し、従業員には手に職をつけられるようサポートした。こうしてできた最初の店が成功し、チェーン店として展開。「最終的に25店舗開き、400人をマネジメントすることになりました」と言う。
食芸餐飲公司の鄭恵如CEOは経営と従業員のケア、環境へのやさしさ、コミュニティケアと顧客への影響力といったB Corpが重視する面に力を注いで競争力を高めてきた。従業員には職業訓練局の関連カリキュラムを受けさせ、資格取得も奨励する。こうした行動が「共有価値の創造」というB Corpの趣旨に合致しているのである。
「従業員の多くが、一定の貯金額を達成すると次々と自分の店を開いています。設計に興味があるという調理師は、楊宗融の指導で室内設計丙級の資格を取り、今では設計士として働いています」と言う。従業員が成長して人生の方向を見出す姿を見るのが、彼らの何よりの喜びなのである。
2017年、鄭恵如(右)はハワイのシンクタンク、イースト・ウエスト・センターの奨学金を受け、女性の指導力訓練に関するセミナーに参加した。(鄭恵如提供)