「中立」こそ基本
司法においては、公正かつ合理性なプロセスが重んじられる。だが、当事者と言葉が通じない時、いかにして正義を実現するのか。当事者の権利を保障するためには司法通訳が欠かせない。
通訳というのは、当事者が理解する言語で伝えて理解させるものである。陳允萍は「通訳そのものが容易な仕事ではないうえ、司法通訳となると、さらに厳格な訓練が必要となります」と言う。双方の言語に精通しているだけでなく、法律用語を精確に理解して正しく伝えなければならないのである。
「例えば『得』という言葉ですが、法律や司法においては『~することができる。そうしなくてもよい』という意味になります。つまり一つの権利を有するが、それを放棄することもできるという意味です」。法律用語を相手の言語に訳す時、その言葉ひとつひとつの意味を精確につかみ、少しもずれることなく当事者に伝えなければ、その人の基本的人権を守ることはできない。
法律の天秤は少しも偏ってはならない。中立公正の原則の下で通訳をする者は、もともと事件とは無関係である。しかし、警察機関には今も全面的な通訳データバンクがなく、随時通訳者の派遣を受けられる状態にはない。しかも事件は突然発生して緊急を要するため、法の執行者が便宜的に親しい人に通訳を依頼することも少なくない。その場合、その通訳者が中立の立場をとれるか、司法の知識や素養があるかどうか、確認することはできない。さらに多くの場合、法の執行者が自ら通訳を務めることもあり、中立の原則は確保できない
陳允萍は、よく見られる例を挙げる。「例えば、逃走した外国人労働者を確保した時、警察はその外国人を紹介した仲介業者に通訳を依頼する可能性もあるのです」。だが、仲介業者は利害関係者であり、理論的には回避しなければならない立場にある。こうした不適格な通訳では公正さは守れない。「ですから、司法通訳の倫理は、手続的正義の最も重要な一環なのです」と陳允萍は言う。
善意の人々から寄贈された冬服を、台東県富岡漁港の外国人船員たちに届ける陳允萍。(陳允萍提供)