善行に功名は要らない
災害後16日目、中華民国赤十字本部の陳長文会長は再建計画記者会見で、人々の支援に謝意を表すると同時に、今後の運営計画を説明し、義援金を災害に必ず使うことや、情報開示の徹底を強調した。その後も義援金は増え続け、12月2日までで赤十字には35億7000万元以上が集まった。これは民間では、全世界に拠点を置く慈済功徳会の集めた額に続くものだった。実際、赤十字は台湾でこの10年、募金活動成長の最も著しい組織になっている。
喜ばしいのは、88水害再建の過程で宗教や宗派の壁を乗り越えることができたことだ。
陳士魁はこう語る。当初は業績を上げようと、「援助の奪い合い」があった。8月末の協調会でも、国際仏光会中華総会事務長の覚培法師がそんな光景にあきれ、陳士魁に「公益団体とは善事を行うもので、功名や業績を求めるものじゃあるまい」と嘆いたという。
同感だった陳士魁は、スマトラ沖地震で2005年に協力した法鼓山基金会の謝水庸顧問を呼び、三者で「戦略聯盟」を組むことを話し合った。後に、一貫道総会と張栄発基金会、そしてキリスト教系のワールド・ビジョンも加わり、再建六大団体とされる団体の中で加わっていないのは、最大の財力を持つ慈済功徳会だけとなった。
戦略聯盟の威力は、台東嘉蘭村の仮設住宅建設に発揮された。ワールド・ビジョンが建設に当たり、図書館や活動センター、東屋などの公共設備は他の団体によって作られ、「それまでは一つの団体がその場所全部の建設を請け負っていた形態を打ち破り、むしろ効果的でした」と陳士魁は言う。
ソフトはハードより難しい
大規模民間団体による援助の多くが成果の見えるハード面に偏っていたのに対し、今回の赤十字による6年再建計画では、ソフト面の再建予算が20%を占める。中でも最も難しいのは「生計改善計画」だ。
陳士魁によれば、元々経済的に搾取される状況だったところに災害で打撃を受けたという事情から、再建目標は以前の生活レベルに戻すことに留まらず、地域再建や特色ある産業・文化の発展などの長期目標を立て、被災者が以前より高い生活の質を得られるよう尽力している。
赤十字は小林村の人々と話し合って生計改善計画を立てた。初期構想は、台湾プラスチックによる有機野菜栽培で人々が働き、収穫物を全聯や大潤発などのスーパーで直販、マーケティングは米系マッキンゼー社に協力を頼むことで「小林ブランド」を打ち立てるというものだ。ほかにも、環境品質文教基金会は植樹計画を立て、土砂災害地域の土壌回復と、地元の雇用促進を進める。
スマトラ沖地震や四川大地震、88水害を通し、赤十字は向上してきた。陳士魁は「官僚システムの能力不足が、非営利組織の成長を促しました」と言い切る。赤十字は定期的に計画進度を公表し、被災者の信頼に背かぬよう心がける。
国内外の被災地への奔走で高速鉄道や飛行機をよく使い、それが「一番の贅沢」という陳士魁は嬉しそうにこう語った。小林村では、政府からの土地無償提供に頼るのでなく、ローンで土地を買いたいと、自主的に相談に赤十字を訪れる人も出てきた。ただ、住宅建設にはまだ援助が必要だ。「良い兆しです。被災地が悲しみから脱け出し、未来を見つめ始めたことであり、赤十字を信頼してくれている証拠ですから」と言う。