すべての瞬間が「唯一のもの」
ウェディングプランナーという職種は欧米や日本には昔からあるが、台湾では1996年に中国信託ホールディングスの辜濂松会長の娘である辜仲玉さんが、3人の兄の結婚式をプランしたことから始まった。彼女は玉盟婚礼コンサルティング社を設立し、こうして初めてウェディングプランがプロの仕事になったのである。それから十年後の今、ウェディングプランを行なう会社は全国に100社を超える。現代の若い人は、結婚すると決めたら、創意あふれる、一生の思い出に残るロマンチックな式を挙げたいと思うもので、ウェディングプランナーが注目の職業となった。
1983年生まれのエミーもそんな一人だ。2006年に日本の短大を出て帰国した彼女は、社会人としての最初の仕事にウェディングプランナーを選んだ。
「この仕事は、人に対しても物事に対しても、目には見えない細やかな配慮が求められます。例えば、あるカップルの結婚式では、二人が最初のデートで聴いた歌を流しました。それは私がお二人と初めてお話した時に聞いた話を覚えていたからです」とエミーは言う。その歌が会場で流れ始めた時、二人には驚きと感動の表情が浮かび、エミーの疲れも吹き飛んだ。
「こんなふうに人を幸せにできる仕事なのですから、やらない理由がありません」と、まだ幼さの残るエミーは強い意志をこめて語る。
映画「ウェディング・プランナー」を見てこの業界に入ったというエミーとは違い、陳維農さんは、屋外の大型イベント執行の経験を活かして3年前から屋外結婚式のプランニングを始めた。
何が起こるかわからない
「ウェディングプランというものに触れたのは、楽団のライブ演奏の仕事がきっかけでした」マーケティングコンサルタントで楽団の責任者でもある陳維農さんは、専科学校では電子を専攻し、兵役中に試験を受けて交響楽団に入った。しかしマーケティングに興味があったので有名な広告会社に入社し、その後、人脈を活かして独立し、大型イベントやコンサート実施の依頼を受けるようになった。
披露宴で演奏する機会が多いことから、結婚を予定する人から相談を受けることが多くなり、それならウェディングプランニングをやろうと考え「幸福事務所」を設立したのである。
幸福事務所は屋外披露宴を専門に扱う。屋外では状況の変化が大きく、雨が降ればすぐに代替プランを出さなければならないなど、創意の空間が大きぶん、やりがいもある。このような大胆な婚礼にかかる費用はやや高く、室内の5倍の予算が必要だが、陳維農さんはこの市場の開拓に成功した。現在は年に40〜60件の申込みがあり、1件あたりの平均売上は20万元、6月のシーズンには40万元を超える。
ウェディングプランナーにはどのような人が向いているのだろう。「チェルシーパーティ・ウェディングプランニング」の呉孟静さんによると、特に難しい条件はなく、専攻学科も関係ないと言う。細かい配慮ができ、人当たりが良く、忍耐強いこと、そしてコミュニケーションとコーディネートの能力も不可欠となる。申込みから結婚式まで半年という期間があるので、それぞれの段階での必要事項をきちんと進めなければならず、夜中の2時にクライアントから相談の電話を受ける覚悟も必要だ。
神経も身体も疲れる重労働
この仕事を始めて1年になるハナは、マリッジブルーになった花嫁の例を挙げる。その23歳の花嫁は、彼氏からロマンチックなプロポーズを受けて結婚を決意するが、半年の準備を経た、結婚式の1週間前になって不安にさいなまれ始めた。
「結婚式で私はきっと失敗するわ。どうしよう、彼のお母さんや兄弟とうまくやれるかしら。もう結婚なんてやめたい」と夜中の電話が絶えなかった。
一つの結婚式を円満に進めるのは容易なことではないとハナは言う。入場から挨拶、抱擁、両親へのお礼までを、どのタイミングで行なうか、そういった細かいことが重要な鍵となる。
「新郎新婦にとっては人生に一度限りの事なのですから、少しのミスも許されません。プランナーにとってはまさに戦争で、わずかな手違いも命取りになるので、水も食べ物も口にせずに10時間立ちっぱなしのこともしばしばです。そのプレッシャーから胃を患う人も少なくありません」とハナは言う。あるプランナーは、入場の順序を間違えたために披露宴中に何度か場が冷めてしまい、翌日はネットと電話のクレームに対応するだけで大変だったという。
結婚式の手順を間違えないために、リハーサルが不可欠なだけでなく、当日の突発的な状況にも冷静も対応しなければならない。
「私が初めて司会を務めた時は、両家の友人には社会的地位の高い偉い方が多くて、皆さんが祝辞を述べたいとおっしゃいました。慌しい中で、私は貴賓の名刺を手に、祝辞をアナウンスしたのですが、その方は壇に上ると、100卓余りの来賓に向って『この司会者は私の名前を読み違えただけでなく、肩書きまで間違えました。まったく、ひどいものです』と10分あまりにわたって不満をおっしゃったのです。同僚が支えてくれていなければ、私はとっくに飛び出して、大声で泣いていたと思います」と初めての司会の経験を思い出し、エミーは今も不安そうな表情を見せる。
幸福感こそが最大のエネルギー
日本の漫画家、鴨居まさねの作品が原作のテレビドラマ「ウェディングプランナー」は、ウェディングプラン事務所を舞台とした物語だ。そこに登場するプランナーの中には、エミーのように華やかな披露宴の陰で巨大なプレッシャーと戦っている人もいれば、自分の恋愛はうまく行かないのに、人の幸せのために必死に努力する人もいる。
結婚式のための煩雑な手続を幾度も経験し、婚姻関係における複雑な人間関係にも触れてきたためか、若いウェディングプランナーたちは、自分の結婚には積極的でない。それでも「式と披露宴が円満に終わり、お二人が幸せそうな顔をしているのを見ると、それだけでこの仕事を続けるエネルギーになります」と、エミーもハナも、異口同音に語るのである。