異郷に死して名を留める
龔李夢哲の遺作『異郷・家塚』は、主に墓園の主は誰かを追ったものだ。龔敏如によれば、真相を探るため、繰り返しネットで調べ、カナダからも墓園に眠る人の関係者が資料を送ってくれたりした。イギリス政府の領事館資料も調べることができ、その結果、墓園に眠るのは、税関職員、領事代理の夫人、教会の牧師などで、イギリス人のほかドイツ、スイス人もいることがわかった。当時は誰でも埋葬できたので、人種や宗教の隔てなく、各国の船員や台湾で働いたエンジニアなども含まれていたと考えられる。
彼らの遺骸がここに残されたままで、ろくに維持管理もなされず消えかけていることに、デビッドは心を痛めた。100年余り前にこの台湾に深く関わったり貢献したりしたというだけでなくても、この打狗外国墓園に眠る男女や子供は決して忘れ去られるべきではないと彼は考えた。
華人社会では故郷を離れることは悲しいことであり、まして異郷での死は最大の不幸とされる。デビッドは同著を7割ほど書き進めると、墓園近くにある、死者をつかさどるという「嶽帝殿」に参拝し、同著の完成を神に祈った。
龔敏如は、デビッドが自転車に乗り、あちこちを訪問して回っていた様子を思い出す。イギリスの典型的な学者らしく好奇心や観察力に満ち、論理立てた分析を重んじた。そして台湾の歴史や文化に大いに興味を抱いた彼は、「英国領事館外交ファイル」を参考に、20数年かけたフィールドワークや資料分析、関係者との書簡のやり取りによって同著を書き上げたのである。
「彼の代わりに、この本を完成させることにしました」と龔敏如は言う。デビッドが亡くなった後は、ただ彼の残した資料を整理しようと考えただけだった。が、読むうちに、そこに書かれた事実や生命力に心を打たれ、デビッドの使命を引き継ごうという気になったのである。同著には多くの謎が散りばめられており、読む者に種を植え付け、探索は継承されていくはずだ。
墓碑の下に眠っているのは税関職員、領事代理夫人、教会の牧師など、国籍や宗教を異にする人々である。この他に、各国の船員や技術者なども埋葬されたと考えられるが、歳月を経て墓碑は傾いている。