エルメスがくれたヒント
苗栗県竹南の陳協和金紙行は、高品質で高価なエルメスのバッグのセグメント・マーケティングにインスピレーションを得て、「いい物を少しだけ燃やす」というブルー・オーシャン戦略に打って出た。
陳協和金紙行がある竹南はかつて福建からの移民が信仰と金紙銀紙の製造技法を持ち込み、さらに旺盛な内需を背景に金紙業者が集まったことで「金紙窟」を形成してきたが、1990年代以降、金紙産業は機械化が進み、さらに安い海外製品の流入、環境保護意識の高まりによって次第に衰退していった。
陳協和金紙行の三代目で、現在80歳の陳坤輝氏は産業の衰退に落ち込んでいたある日、職人の手仕事で作られたエルメスのバッグは1つ6、70万元もするというのに、女性たちが先を争って手に入れようとしているニュースを見て、「金紙界のエルメスを目指せばいいじゃないか!」と閃いたという。
「額面を表す錫箔を大きくすれば高額紙幣となる。高額の金紙1枚で少額の金紙数枚分になるなら、燃やす量を減らすことができるじゃないか」と考えた彼は、金紙に貼る約1㎠、すなわち指先ほどの大きさの錫箔を10倍の大きさにして、市販の金紙との差別化を図ったのである。
また彼は環境保護のため、燃えないアルミ箔ではなく、完全燃焼可能な純度99%の錫箔を採用し、紙も再生紙ではなく、伝統的でかつ環境汚染度が低い竹紙を使用した。金色の顔料も天然由来のセラック(カイガラムシの分泌物を精製した樹脂状の物質)を使ったため、市販の金紙の2、3倍のコストがかかるようになった。そのため発売したばかりの頃はなかなか売れなかったが、2000年にテレビ番組のインタビューで「いい物を少しだけ燃やそう」と提唱したところ大きな反響があり、業績は一気に上がった。